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スロバキアのサガンが連覇達成! 2016ドーハ世界選

中東で初開催のロード世界選は、
予想通り砂漠の暑さと強い風がカギになった。
過酷なレース条件を味方につけたベルギーチームは
ハードワークでレースを支配したが、
スロバキアのサガンはそれをまんまと利用し、
あっさりタイトル防衛をやってのけた




http://www.uci.ch/road/

中東で初開催のロード世界選手権

 
カタールの首都ドーハが舞台となり、史上初めて中東で開催された2016年UCIロード世界選手権は、予想通り36度Cの暑さと、砂漠を吹き抜ける強風がレース展開に大きく影響した。

世界選手権と言えば、いくつかの丘越えが含まれたサーキットを何周も走って競われることが多いが、カタールは平坦な土地柄のため、257.3kmのコースに丘越えは1つもなかった。

最初の150kmは、砂漠の真ん中をまっすぐ北上して折り返す単調なレイアウトで、その後、人口島のザ・パール・カタールに設定された1周15.2kmのサーキットを7周する。独特な形をした人工島の道路にはいくつものUターンとカーブがあり、非常に難しいサーキットではあったが、今年のコースは明らかにスプリンター向きだった。

カタールでは、2002年から毎年シーズン序盤にアモリー・スポール・オルガニザシオン(ASO)の主催でツアー・オブ・カタールが開催されている。ベルギーのトム・ボーネン(エティックス・クイックステップ)は4度総合優勝し、区間は通算22勝を記録していた。

世界選の前日に誕生日を迎えたボーネンはすでに36歳で、2005年のマドリード世界選で優勝してから11年の歳月が経っていた。彼は来年パリ~ルーベを走った後に引退すると表明しているが、相性の良いカタールで開催される最後の世界選で、もう一度アルカンシエルを獲得する大望を抱いていた。
 

ベルギーチームが集団を分断

 
快晴の下、48カ国から集った199選手がスポーツ複合施設のアスバイア・ゾーンからスタートし、北西の風が吹き付ける砂漠へと旅立った。例年通り、序盤は優勝とは縁のない7人の選手たちが10分以上のタイム差を付けて逃げ続け、集団はマーク・カヴェンディッシュ(ディメンションデータ)を擁した英国チームがコントロールしていた。

その退屈な砂漠のレースは、80kmを消化して北端で折り返し、南下が始まると大きく動き出した。強い横風は追い風気味になり、集団のスピードが上がり始めると、先頭でベルギーチームが攻撃を仕掛けたのだ。

北海から吹き付ける強風の中で育ち、厳しいクラシックレースで闘っているベルギー人にとって、風を味方につけることはたやすかった。ベルギーチームはフラマン語で扇を意味する『ワイエル』を横風で作り、集団を分断することに成功した。

20人ほどの集団が出来上がると、ベルギーチームはさらにスピードを上げ、後続集団とのタイム差を広げていった。そこにはボーネンの他に、5人のベルギー選手が加わっていた。

しかし、集団ゴールスプリントに持ち込みたくないベルギーチームが、横風の強い砂漠のどこかで仕掛けることは明白で、多くの国がその攻撃を見逃さなかった。

連覇を狙うスロバキアのペーテル・サガン(ティンコフ)は、チームメートで兄のユライ、マイケル・コラールと一緒にそのグループに加わっていた。サガンのアシストは、今年もこの2人だけだった。

英国のカヴェンディッシュはアダム・ブライス(ティンコフ)を従え、ノルウェーのアレクサンダー・クリストフ(カチューシャ)にはエドワルド・ボアソンハーゲン(ディメンションデータ)とトルース・コルセース(チームヨークル)の2人が付いていた。

オランダはニキ・テルプストラ(エティックス・クイックステップ)とトム・リーゼル(チームロトNL・ユンボ)が入り、オーストラリアはオリカ・バイクエクスチェンジのマイケル・マシューズとマテュー・ハイマンが入っていた。

そしてイタリアはエリア・ビビアーニ(チームスカイ)、ジャコモ・ニッゾロ(トレック・セガフレード)、ダニエーレ・ベンナーティ(ティンコフ)、ヤコポ・グァルニエーリ(カチューシャ)の4人が揃っていた。
 

 

この決定的な瞬間に、優勝候補と言われていたフランスとドイツは遅れを取ってしまっていた。フランスはアルノー・デマール(FDJ)とナセル・ブアニ(コフィディス)、ドイツはマルセル・キッテル(エティックス・クイックステップ)とアンドレ・グライペル(ロット・ソウダル)がエースで、集団ゴールスプリントを競うことを望んでいた。しかし、そのためには強い横風の中、ベルギーが先導する危険な集団を捕らえなければならなかった。

オランダのトム・ドゥムラン(ジャイアント・アルペシン)とオーストラリアのカレブ・ユーワン(オリカ・バイクエクスチェンジ)は、このタイミングで致命的なパンクに見舞われてしまった。そしてコロンビアのフェルナンド・ガビリア(エティックス・クイックステップ)は落車に巻き込まれ、リタイアを余儀なくされた。
 
 
ゴールまで残り145kmで、ベルギーが引く集団は逃げていた6人を捕らえ、この時点で先頭は26人になった。そしてザ・パール・カタールのサーキットに到着したとき、後続集団には1分以上のタイム差を付けていた。

その差はテクニカルなサーキットに入ってさらに広がり続け、残り80kmで2分に達した。後続集団ではもう追いつく見込みはないとあきらめた有力選手たちが、次々と自転車を降りていた。そして残り2周では、大きな集団が足切りでレースを止めざるを得なかった。

ベルギーチームはイェンス・ククレール(オリカ・バイクエクスチェンジ)、ヤスペル・スタイブン(トレック・セガフレード)、オリビエ・ナーセン(IAMサイクリング)が先頭を引き続け、常にレースを支配下に置いていた。

残り5kmでオランダのテルプストラがアタックを試みたが、ベルギーのグレッグ・バンアーベルマート(BMC)がすぐ反応して押さえ込んだ。しかし、オランダ勢はあきらめず、残り2.4kmでリーゼルが飛び出し、あっという間に6秒差を付けて先行した。

リーゼルはフラムルージュで4秒差を付けて逃げ続けたが、ベルギーのユルフン・ルーランツ(ロット・ソウダル)がその差を縮め、ボーネンのスプリントをお膳立てした。

すべてを託されたボーネンは、最後の望みをかけて残り200メートルからスパートした。しかし、右後方から信じられないようなスピードでスロバキアのサガンが飛び出し、あっという間に先頭に立った。そして両手を上げて、フィニッシュラインを通過した。

2位にはカヴェンディッシュが入り、ボーネンは3位で表彰台に上がったが、その顔に笑みはなかった。ベルギーのような大国相手に連覇を果たした26歳のサガンは、奇しくも2人の元王者を従えて表彰台に上がり、ふたたびアルカンシエルにソデを通したのだ。そして彼は、世界選を2年連続で制した史上6人目のチャンピオンになった。
 

 

■連覇を果たしたサガンのコメント「すごくハッピーだ。横風でできた最初のグループに何とか入ることができた。最後はゴールスプリントになり、ちょっと向かい風だったから、僕は後方から行く必要があると感じた。ニッゾロが行手をふさがなくてラッキーだったよ。ブレーキをかけるつもりがなかったから、もし彼が僕の前を塞いていたら、2人とも落車していただろう」

「ここにはスロバキアからファンの大集団が来ていて、皆に感謝している。今日はそれがたくさんの力をくれたんだ。ここに来てくれた家族にも感謝している。父、妻、そして兄。兄は一緒に先頭集団にいたが、横風の中でボトルを取りに下がって戻れなくなってしまった。コラールも僕のために信じられないような仕事をしてくれて感謝している。彼はずっと一緒にいて、僕を助けてくれた。とても幸せだよ」


■2位になったカヴェンディッシュのコメント「戦術的にしくじって、がっかりしている。僕は十分なスピードとパワーを持っていた。サガンの後ろに付けたかった。ノルウエー勢が早いうちに向かい風にぶつかるだろうとわかっていたし、サガンが正しい位置取りをするのもわかっていたから、彼とともに浮上することができたはずだった」

「厳しかったのはルーク・ロウをパンクで失ったことだった。前の集団でイギリスチームの3人目になれば、彼は最後に役立つはずだった」


■最後の世界選を3位で終えたボーネンのコメント「我々はできうる全てのことを試みたと思う。75kmからレースをコントロールし、昨年同様に世界選で重要な役どころを演じた。チームメートたちのことを本当に誇りに思っているよ」

「今日、ベルギーには2つの戦術があった。バンアーベルマートは大きな攻撃をカバーし、僕はスプリントを上手く仕上げる。リーゼルが行ったとき、前に残っていたのは僕とルーランツだけで、ルーランツはリーゼルを捕まえるためにエンジン全開で行かなければならなかった。その時点で、厳しいのはもうわかっていた」

「イタリアの選手が僕を追い越した時、チャンスができたと感じ、ライバルたちを驚かせてやろうと、残り200メートルからスプリントを始めた。けれど、サガンやカヴェンディッシュのような奴らが後ろに付いていたのでは、やり遂げるのは難しいものだ。勝利まであと一歩のところだったから、チームのパフォーマンスに満足していると言える」
 

2016年UCIロード世界選手権/男子エリート・ロードレース結果

 
1 ペーテル・サガン(スロバキア/ティンコフ)5時間40分43秒
2 マーク・カヴェンディッシュ(英国/ディメンションデータ)
3 トム・ボーネン(ベルギー/エティックス・クイックステップ)
4 マイケル・マシューズ(オーストラリア/オリカ・バイクエクスチェンジ)
5 ジャコモ・ニッゾロ(イタリア/トレック・セガフレード)
6 エドワルド・ボアソンハーゲン(ノルウェー/ディメンションデータ)
7 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー/カチューシャ)
8 ウイリアム・ボネ(フランス/FDJ)
9 ニキ・テルプストラ(オランダ/エティックス・クイックステップ)
10 グレッグ・バンアーベルマート(ベルギー/BMC)