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糖尿病への理解を深めるサイクリングイベント『スポーツバイク・エクスペリエンス』
2016.11.16
自転車に乗って、糖尿病への理解を深めるイベント
秋晴れに恵まれた明治神宮外苑(東京都新宿区)で、『世界糖尿病デー』前日の11月13日に、ノボノルディスクファーマ株式会社と公益社団法人日本糖尿病協会が共催するサイクリングイベント『スポーツバイク・エクスペリエンス』が初開催された。
ノボノルディスクファーマ株式会社は、全員が1型糖尿病患者の選手で構成された世界初のプロサイクリングチーム『チームノボノルディスク(UCIプロコンチネンタルチーム)』のタイトルスポンサーだ。
チームノボノルディスクは2014年から毎年ジャパンカップ(アジアツアー1.HC)に参加し、今年はスペインのハビエル・メヒアスが8位になり、日本のファンの前で初めてトップ10入りを果たした。
このイベントは、試乗会、初心者向け自転車教室、トークショー、東京サイクリングツアーなどの企画に、参加者が『糖尿病』の正しい知識と理解を深められる機会を盛り込んだユニークなものだった。
会場ではジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社の協力で、誰でも気軽に無料で『血糖測定体験』ができ、自転車に乗って運動すると、どれだけ血糖値を下げる効果があるのかが実感できた。
運動すると血糖値が下がるというのは、知識としてはあっても、それをわかりやすく数値で実感できる機会はなかなかない。それがこのイベントでは、とても簡単な検査で体験できた。
試乗前に血糖値を測り、20分間自転車を試乗したあと、もう一度血糖値を測ってみる体験をすると、チームノボノルディスクのオリジナルサコッシュがもらえたのもうれしかった。
スポーツパイク試乗会には、チームノボノルディスクが使用するコルナゴを筆頭に、キャノンデール、デローザ、メリダなどの人気ブランドや、なかなか試乗する機会のないビクシス(BIXXIS)のようなハンドメイドブランドまで揃い、約500人のサイクリストが神宮外苑の周回路で試乗を楽しんだ。
『スポーツバイク・エクスペリエンス』は、初めて開催されたイベントだったが、お天気に恵まれたこともあり、約2800人が来場し、のべ1000人が血糖測定を体験した。
チームノボノルディスクから2人の選手が来日
この日、チームノボノルディスクの選手たちは世界中で開催された『世界糖尿病デー』のイベントに参加した。日本で開催された『スポーツバイク・エクスペリエンス』のためにやって来たのは、ニュージーランド出身のアーロン・ペリーさんとステファニー・マッケンジーさん。
29歳のアーロンさんは、2013年と2014年にUCIプロコンチネンタルチームのチームノボノルディスクで走っていた元プロ選手で、引退後はチームノボノルディスクのアンバサダーを務めている。
彼は13歳からロードレースを始めたが、16歳の時に1型糖尿病を発症。一度はロードレースを辞めたが、チームノボノルディスクのことを知って希望を取り戻し、糖尿病をコントロールしてプロ選手になることができたのだという。
23歳のステファニーさんはまだ大学生で、チームノボノルディスクのエリート女子チームに所属するトラック選手だ。短距離が得意で、2011年にはジュニア・トラック世界選手権のケイリンと個人スプリントで銀メダルを獲得している。
2人はイベント前夜の8時にニュージーランドから東京へ到着したばかりだったが、当日は午前中に宇都宮ブリッツェンの鈴木真理選手とイベントステージでトークショーを行った。
8歳で1型糖尿病を発症したステファニーさんは「他の子供たちに、糖尿病は感染するものだと思われたのには困りました。でも、私は社会の中で普通の生活がしたかったし、糖尿病であることを受け入れた上で、他の人たちと同じような経験をしながら、生きたいと思いました。だから、私は糖尿病と診断されたことで、何かをあきらめたことはありません」と、実体験を語ってくれた。
その力の秘密を、アーロンさんはこう話してくれた。「私たちが他の選手たちと違うのは、レースに参加する時は、いつも世界中の糖尿病患者の皆さんにメッセージを発信しているんだと、強く意識している所です。私たちは、彼らの想いを背負って走っているんです」
「それからやはり、糖尿病なので血糖値を常に測定して管理しているという所はちがいます。血糖値のコントロールがしっかりできればできるほど、いい成績を残すことができるからです」
チームノボノルディスクの選手たちが、強いメッセージをたずさえて走っていることは誰もが知っていたが、こんな風にステファニーさんとアーロンさんの話を直接聞くことができたのは、日本の自転車ファンには本当に貴重な体験だった。
アーロンさんはロードレースを引退してしまったが、もう一度復帰して、トライアスロンのアイアンマンで完走するのが今後の目標だと話していた。
ステファニーさんは来年大学を卒業した後、こんな目標を持っている。「私は2011年からニュージーランドのハイパフォーマンス・プログラムに参加しています。とても厳しいプログラムですが、それによって肉体的にも精神的にも強くなりたいです。2018年のコモンウエルス・ゲームを目標にしています。その後も前進して、精神的にもっと強くなり、2020年には東京(オリンピック)へ戻って来たいです」
チームノボノルディスクの親善大使たちが東京をサイクリング
午後には来日したチームノボノルディスクの2人の選手、ゲストライダーの益子直美さん、山本雅道さん夫妻、今中大介さん、絹代さんと一緒に東京都心をサイクリングする『BIKE TOUR in TOKYO(バイク・ツアー・イン・トーキョー』が開催された。
このサイクリングツアーには無料で参加でき、参加資格は「ロードバイクに乗ったことがある人、ロードバイクを所有している人、チームノボノルディスクの親善大使として、チームの活動を応援できる人」だった。定員は20人だったが、チームノボノルディスクのチームジャージがプレゼントされたこともあり、176人もの応募があったそうだ。
幸運にも選ばれた20人の『親善大使』たちは、チームノボノルディスクのチームジャージを着て、選手たちと一緒に迎賓館、国会議事堂、皇居、東京タワーなどを見て回れる約16kmのサイクリングを楽しんだだけでなく、スタート前と後に血糖値を測り、運動の効果も実感していた。
チームノボノルディスクの挑戦
『1型』を意味するタイプワンをチーム名として背負って走っていたチームタイプワンは、2011年にUCIプロコンチネンタルチームに昇格。当時は1型糖尿病の選手と、そうではない選手の混成チームだったが、糖尿病を患っていても自転車競技のトップレベルで競えることを実証し、世界中の注目を集めるチームへと成長していた。
2012年の12月には、デンマークに本社を置くグローバルヘルスケア企業で、糖尿病治療に欠かせないインスリン製剤で世界トップシェアを持つノボノルディスクファーマ社がパートナーになり、2013年のシーズンからは所属選手が全員1型糖尿病患者になり、より強いメッセージを持った現在の形に進化した。
UCIプロコンチネンタルチームのチームノボノルディスクには、現在8カ国から集まった18人の選手が所属し、世界各地のトップレースで活躍し、同じように糖尿病とともに生きる世界中の人々を元気づけ、勇気を与えている。
チームノボノルディスクの夢は、インスリンが発見されてちょうど100年目にあたる2021年までに、世界最高峰の自転車レースであるツール・ド・フランスに出場することだ。
糖尿病を発症すると、多くの人は自分の望んでいるような生活ができなくなってしまうと考えてしまう。しかし、チームノボノルディスクというチームの存在を知って希望を取り戻し、自分にも彼らのようにできるんだと実感し、糖尿病としっかり向き合って管理に取り組めるようになるのだ。
チームノボノルディスクの一員として世界中で活躍しているのは、男子プロチームの選手だけではない。チームノボノルディスクには、デベロップメントチーム、ジュニアチーム、エリート女子チーム、エリート男子チームや、ランニングチーム、トライアスロンチーム、そして2型糖尿病患者で構成されたタイプツーチームもあり、100人以上のアスリートが糖尿病をコントロールしながらスポーツを続けている。
糖尿病について、もっとよく知ろう
糖尿病は血液の中のブドウ糖(血糖)が多くなる高血糖が特徴で、長期的な管理が必要な代謝疾患だ。
糖尿病と聞くと「生活習慣病だ」とか「甘いものを食べすぎるとなる」と、思う人が多いだろう。しかし、それは日本人に多い2型糖尿病のことで、1型糖尿病には当てはまらない。
まず糖尿病には似ているようでまったく異なった2つのタイプがあることを知っておこう。
1型糖尿病は生活習慣には関係がなく、小児から青年期に突然発症することが多い。予防することが可能な2型糖尿病とは異なり、1型糖尿病は予防ができないものなのだ。
チームノボノルディスクの選手たちが持っている1型糖尿病は、まだ原因がはっきり解明されてはいないが、主に自己免疫反応の異常により、インスリンが作られるすい臓の細胞が破壊されることで発症する。
インスリンは食事から摂取した血糖を体内に取り込むのに必要なホルモンなので、これが体内で作らず、分泌されなくなると血糖をコントロールすることができなくなり、高血糖になってしまう。
高血糖になると、血管が傷つけられたり、血液がドロドロになり、深刻な合併症を引き起こしてしまう。そのため1型糖尿病患者は、体内ではほとんど作られないインスリンを定期的に投与し、血糖値を下げなければならないのだ。
糖尿病をコントロールするためには、血糖値が高くなっていないか、あるいは薬が効きすぎて低くなっていないか、定期的に測ってチェックすることがとても重要だ。
チームノボノルディスクの選手たちは、数分おきに血糖値を測定してモニタリングできるCGMと言う測定器をお腹まわりに付けている。選手たちはリアルタイムに血糖値のグラフを確認できるレシーバーを背中のポケットに携帯したり、ハンドルバーに取り付けたりして、血糖値が最適な状態であるかどうかを常にチェックしているのだ。
チームノボノルディスクに勇気をもらった未来の選手たち
1型糖尿病でも、世界のトップレベルの自転車レースで活躍しているチームノボノルディスクの選手たちから勇気をもらい、自転車選手になる夢を追いかけている子供たちが日本にもいる。
神奈川県逗子市在住で中学1年生の大原慎人君は、チームノボノルディスクのジュニアチームに入るために、日々努力している。15歳になったら、米国のアトランタ近郊で行われるチームの新人発掘キャンプ『タレントIDキャンプ』に参加するのが目標だ。
慎人君は2年半前、小学校5年生の時に1型糖尿病を発症。父親の寛昭さんがトライアスロンをしていたため、慎人君も小学校4年生の頃から自転車に乗っていた。そして、チームノボノルディスクの存在を知り、自分もいつかチームの一員になりたいと思うようになった。
TVで海外のロードレースを観ているという慎人君に好きな選手は誰? と、聞いてみたら「新城幸也選手。それからチームノボノルディスクのジョー・エルドリッジ選手」だと教えてくれた。すでに現役は引退してしまったが、エルドリッジ選手はチームノボノルディスクの創立者の1人だ。
2014年に慎人君が1型糖尿病を発症した後、知り合いからチームノボノルディスクのことを教えてもらった父親の寛昭さんは、米国のジュニアチームの監督と連絡を取り合っていた。
それをエルドリッジ選手が知っていて、2014年のジャパンカップにチームノボノルディスクが初参戦した時、彼の方から慎人君に「君だね」と、話しかけてきたのだそうだ。
アーロンさんはトークショーで世界中の糖尿病患者の皆さんの想いを背負って走っていると話していたが、もっと強いつながりがわかるエピソードだった。
現在慎人君は山本雅道さんのTEAM BFY RACINGに所属している。チームノボノルディスクの15歳から18歳を対象とした『タレントIDキャンプ』に参加するには、「週に100マイル(約161km)以上トレーニングをしていること」、「この1年間で20レース以上走っていること」などの条件があり、それをクリアするために日々走り続けている。
慎人君に、将来はどんなタイプの選手になりたいのか聞いてみると「クライマー」という答えが返ってきた。坂を上るのが好きなのかと思ったら、「上りでいつも遅れてしまうから」だと言うので驚いてしまった。あえて不得意なことを克服しようと考える、彼の精神力の強さには脱帽だ。
未来のライバル?
サイクリングツアーの出発前に、チームノボノルディスクのステファニーさんを見つけて、一緒に写真を撮ってとお願いしていた女性サイクリストがいた。横浜の高校に通っている野島理紗子さんだ。
自転車競技部に所属し、トラック競技をしている理紗子さんは、今年3月に1型糖尿病を発症し、一時はとても落ち込んでしまったが、チームノボノルディスクの存在を知り、とても励まされたという。
理紗子さんは脚の靭帯を怪我していて、松葉杖が取れたばかりだったのだが、この日はどうしてもみんなと一緒に走りたいからと言って、サイクリングツアーに参加していた。
ステファニーさんが自分と同じトラック競技の選手だと知ると、理紗子さんはぜひ友達になりたいと言い、ステファニーさんも快く応じてくれて、Facebookでつながることができた。
来年は大学に進学することが決まっている理紗子さん。彼女はもしかしたら、数年後にはステファニーさんのチームメートになり、東京オリンピックでメダルを争うライバルになるかも知れない。その日が楽しみだ。
世界糖尿病デーのシンボル『ブルーサークル』
『スポーツバイク・エクスペリエンス』の朝、会場ではイベント関係者総勢100人以上が、世界糖尿病デーのシンボルカラーであるブルーのパーカーを着て、シンボルマークの『ブルーサークル』を人文字で作成した。その写真は世界に向けて発信されている。
◯チームノボノルディスク 公式サイト(英語)→ http://www.teamnovonordisk.com
◯チームノボノルディスク 日本語紹介サイト → http://www.club-dm.jp/tnn.html
◯ノボノルディスクファーマ株式会社 → http://www.novonordisk.co.jp
◯公益社団法人日本糖尿病協会 → http://www.nittokyo.or.jp