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キャニオン・エンデュレース CF SLX 9.0 「速さを失うことなく、快適性を追求」

高い開発力、抜群のプライスパフォーマンスで世界のロードバイクシーンを席巻するドイツのキャニオン。2016年モデルではディスクブレーキ仕様がデフォルトとなるエンデュランスロード「エンデュレースCF SLX」を新たに投入してきた。
text:吉本司 photo:小見哲彦

速さを失うことなく、快適性を追求する

「キャニオン・エンデュレース CF SLX 9.0」シマノ・デュラエース完成車価格/52万7000円(税抜)
「キャニオン・エンデュレース CF SLX 9.0」シマノ・デュラエース完成車価格/52万7000円(税抜)
キャニオンは2014年に同社初となるエンデュランスロード「エンデュレースCF SL」シリーズを発表したが、2016年は満を持してその上位機種となる「エンデュレースCF SLX」を追加してきた。
本作は昨年刷新されたコンペティティブロードのアルティメットCF SLXシリーズで培った重量比剛性と空力を高次元で両立する設計をベースにしながら、さらに優れた快適性を付加することで「より速く遠くへ、快適に安全に」ライダーを導くための走行性能を追求している。
そして多様化するライドシーンへの対応と次代のロードバイクにける基本スペックを見据えて、ブレーキシステムはディスクのみ対応する仕様で開発されている。


そのブレーキはフラット規格に前後12㎜のスルーアクスルという、これからのロードディスクで標準となる規格で、それに合わせてエンド周りやフォーク形状などを再設計。さらに制動時にブレーキキャリパーが発生する高温からエンド周りを守るために、この部分のプリプレグには耐熱性に優れるレジンが用いられた。こうした周到な設計は、緻密な開発で知られるキャニオンらしい仕様だ。
快適性については、専用のカーボンレイアップを新たに採用すると共にジオメトリーとシートポストの構造を見直し、エアボリュームの大きな太幅タイヤ、カーボン一体型の専用ハンドルバーを搭載して向上を図っている。

 
ジオメトリーはアルティメットシリーズよりもスタックを約10㎜、リーチを約8㎜短く設計してアップライトな乗車姿勢を提供。チェーンステーは5㎜延長した415㎜として28㎜幅のタイヤを標準装備しながら、最大32㎜(スリックパターン)幅を飲み込む大きなタイヤクリアランスを持ち、乗り心地と荒れた路面における走破性の向上に貢献する。
シート部の設計については、シートポストの柔軟性を高めるインテグレーテッドシートクランプの構造をアルティメットCF SLXから継承し、独自のリーフスプリング構造を持つ「S15 VCLS2.0 CF」シートポストの追加により、乗り心地を最高レベルに高めた。


こうしたエンデュランス向けバッケージを搭載しながらエンデュレースCF SLXは、フレーム単体で820g、フォーク325g(Mサイズ)の軽さを実現。これはアルティメットCF SLXに対して60gの重量増でしかない。しかもヘッド部、BB、フォークの剛性値は、アルティメットCF SLXと同レベルを確保したという。
まさにその車名の通り、速さを失わず快適性を追求したエンデュランスロードがエンデュレースCF SLXである。

アルティメットシリーズの美点を受け継ぐ軽快な走り

 エンデュレースCF SLXは32㎜の太幅タイヤも履くことはできるが、エンド部には泥よけダボもなければ、メインフレームにはストレージボックス装備用の台座もない。すなわちグラベルロードやアドベンチャーライドを強く意識した設計ではなく、あくまで軸足はロードバイクである。それは走りを体感すれば分かる。

ちなみに筆者は普段から現行のアルティメットCF SLXに乗るが、その基本設計を受け継ぐエンデュレースの走りは、やはりアルティメットの延長線上にある。28Cのタイヤを履いてホイールの外周部がややかさばるだけに、低速の加速や急勾配の上りではアルティメットの走りには及ばない。それでもエンデュレースは肉薄なチュービングに起因するドライでライトなペダリングフィールがあり、身のこなしは軽く、28Cのタイヤを装備したエンデュランスロードとしての運動性能は最高レベルにある。今回はキャニオンジャパンのご厚意で用意いただいたコンチネンタル・グランプリ4000Sの25Cサイズに履き替えて試乗もしたが、そのタイヤを履いたエンデュレースの運動性能は、上位クラスのコンペティティブロードと互角に走れると言ってもいいほどだ。

現行のアルティメットでチャームポイントに感じるのは、肉薄・軽量なフレームでありながらペダリングのスカスカ感や乗車感に腰高な印象がなく、地に足が着いた走りができることだ。高負荷のペダリングでは踏みしろとペダルストロークに余韻があるためトルクを与えやすく、加速ではバネ感があり高速巡航を維持しやすい。癖のないペダリングフィールはトルク型、回転型のライダー、上り、平地の地形まで多様に対応できると言えるだろう。

アルティメイトもコンペティティブロードとしては乗り心地に優れるが、やはりエンデュレースのそれは大きく上回る。もちろん28Cのタイヤは効いているが、ディスク化によってシートステーのブリッジが省かれたフレームの効果も見逃せない。それによる柔軟性の向上は、特に荒れた路面を高速で通過する際のリヤホイールのばたつき感の少なさとして現れる。そして延長されたホイールベースと28Cのタイヤは抜群の安定感を発揮し、一般道の路肩と車道の境にある溝も全く気にならないほど快適なライディングが可能だ。さらにディスクブレーキの存在は、荒れた路面の下りとコーナリングにおいてリムブレーキのコンペティティブロードでは到底及ばないスタビリティを発揮する。

独自のS15 VCLS2.0 CFシートポストも路面からの突き上げ感をかなり緩和してくれる。試乗前はシティングの高負荷のペダリングで腰が落ち着かずパワーロスも心配されたが、予想に反してその印象は少ない。路面からの強い衝撃にはしなりを感じるが、常識的なペダルケイデンスのシティングで走る分にはほぼ違和感はない。とはいえ通常のシートポストはひと味違ったタッチのしなやかさはあるので、絶妙な荷重のいなし感とも言えよう。加減速が少なくサドルに腰を下ろした状態で淡々とペダルを踏むこと多いエンデュランス志向のライダーには、このシートポストの効果は大きいだろう。
シフトワイヤ、油圧ディスクのホール類は全てフレームに内蔵される。キャニオンらしいシンプルでクリーンなバイクのフォルムを壊さない仕様といえるだろう
シフトワイヤ、油圧ディスクのホール類は全てフレームに内蔵される。キャニオンらしいシンプルでクリーンなバイクのフォルムを壊さない仕様といえるだろう
専用設計されたステム一体型のカーボンハンドル「H31」。翼断面形状のアップバーは6度のバックスイープを与えて、アップライトな乗車姿勢を生む。もちろんカーボン素材の特性によって振動吸収性にも優れている
専用設計されたステム一体型のカーボンハンドル「H31」。翼断面形状のアップバーは6度のバックスイープを与えて、アップライトな乗車姿勢を生む。もちろんカーボン素材の特性によって振動吸収性にも優れている
台座の規格はフラットマウント、12㎜スルーアクスル×OLD142㎜の仕様により、軽量・小型にして高剛性なリヤエンド周りを実現。DTスイスと共同開発のスルーアクスルは固定後にレバー部を取り外し可能
台座の規格はフラットマウント、12㎜スルーアクスル×OLD142㎜の仕様により、軽量・小型にして高剛性なリヤエンド周りを実現。DTスイスと共同開発のスルーアクスルは固定後にレバー部を取り外し可能

ベストはやはり28Cタイヤ。フワッと軽い乗り味が気持ちいい

先にも述べたが、今回は標準装備されるグランプリ4000S Ⅱの28C仕様と、その25Cに交換して乗り比べしたが、個人的な印象としては28Cの方がエンデュレースのコンセプトを満喫できるので好ましい。25Cにすると加速の切れの良さや上りの軽さは得られるが、タイヤのクッション性が劣るのでシートポストの柔軟性がやや目立つように思えた。28Cではタイヤのクッション性とシートポストの柔軟性の調和は良く、大げさに言えば少しフワっとした乗り心地がありながらも、軽くバイクが進む感覚が実に気持ちがいい。またディスクブレーキとの相性を考えても28Cの方がベストだろう。

コンペティティブロードに乗り慣れたライダーには、幅太タイヤとリーフスプリング構造のシートポストによるしなやかさは、最初は僅かながら戸惑うかもしれない。しかし荒れた路面の多いコースや長距離を走ると、滑らかにホイールが転がり、軽いペダリングフィールで進むエンデュレースの走りは心地良く、頼もしい。

グラベルやアドベンチャー系のライドにフォーカスせず、あくまでロードバイクの軽快さを重視したエンデュランス性能は、まさしくエンデュレースの車名の通り、長距離を快適に速く駆け抜けることのできる1台であり、現代のロードバイカーには最も適した存在といえよう。ロングライド派はもちろんだが、昔はレースをガリガリやっていて速く走ることの快感を知りつつも、最近はじっくり長距離を走りたいと願うミドルエイジのサイクリストにも似合うモデルだ。
 
独自設計のシートポスト「S15 VCLS2.0 CF」。2本に分割されたカーボン製のポスト部は、垂直方向の荷重に対してしなり、路面からの衝撃・振動を、最大50%カットするという。もちろん横剛性は確保
独自設計のシートポスト「S15 VCLS2.0 CF」。2本に分割されたカーボン製のポスト部は、垂直方向の荷重に対してしなり、路面からの衝撃・振動を、最大50%カットするという。もちろん横剛性は確保
シートポストの固定構造は現行シリーズと同様。シートチューブに専用のスリーブを内蔵し、それをイモネジが押してシートポストを固定。クリーンな見た目と共に、シート部の柔軟性を増すことで快適性も向上させている
シートポストの固定構造は現行シリーズと同様。シートチューブに専用のスリーブを内蔵し、それをイモネジが押してシートポストを固定。クリーンな見た目と共に、シート部の柔軟性を増すことで快適性も向上させている
後方にしなるシートポストゆえ、サドルに座った時のシートアングルが寝てしまう。シートチューブに前後方向のベンド加工を施し、BBシェル側へと僅かに前方へオフセットさせることで最適なシートポジションを得た
後方にしなるシートポストゆえ、サドルに座った時のシートアングルが寝てしまう。シートチューブに前後方向のベンド加工を施し、BBシェル側へと僅かに前方へオフセットさせることで最適なシートポジションを得た

試乗車spec

フレーム●カーボン
フォーク●カーボン
コンポーネント●シマノ・デュラエース
ホイール●DTスイス・RR21ダイカットCLディスクブレーキ
タイヤ●コンチネンタル・グランプリ4000S Ⅱ 700×28C
ハンドルバー&ステム●キャニオン・H31エルゴノミックコックピット(ステム長さ100mm、ハンドル幅420mm)
シートポスト●キャニオン・S15 VCLS2.0CF
サドル●フィジーク・アリアンテR5
サイズ●2XS、XS、S、M、L、XL、2XL
カラー●ステルス×アスファルトグレー、ケロシンレッド×グレーメタリック
試乗車実測重量●7.32kg(Lサイズ、ペダルなし)

問い合わせ先

キャニオンジャパン
https://www.canyon.com/ja/road/