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シーズン中のコンディショニング術とは?

イベント
今年もレースのシーズンが幕を開けた。“ライバルは自分”という言葉もある通り、今シーズンこそは自己ベストを破りたいもの。そんな目標を掲げた気合い十分なサイクリストが集ったCycle Sportsセミナーこそ「ヒルクライム必勝法 去年の自分に勝つ」であった。

5月19日、八重洲出版にて開催されたイベントでは、ゲストとしてLEOMO所属のプロ選手、才田直人さんとスポーツ栄養学のスペシャリスト、桑原弘樹さんをゲスト講師としてお招きした。それぞれの一流が考える「去年の自分に勝つ必勝法」とは? イベント当日の内容をレポートする。


 

二人のプロ直伝! 勝つためのトレーニング期とテーパリング期とは

トレーニングメニューの組み立て方を解説する才田選手
トレーニングメニューの組み立て方を解説する才田選手

この日参加したサイクリストの多くはサイクルウェア姿で気合いも十分。そんな参加者が特に前のめりで聞いていた話は、「レース三週間前からのトレーニングと栄養素」について。トレーニングと栄養、それぞれの観点から考えていこう。

才田さんによるトレーニング期のオススメメニュー
レース本番から逆算して2週間前までにあたる『トレーニング期』は、体力をつけることと現状における自身の能力の限界を知るべき時期。「練習を通じて自身の限界を体感し、本番のレース計画に反映するのが狙いです」と、才田さんが示したのはこちらだ。
 

月 イージー 1時間
火 5分VO2Max 5分レスト x 3セット
水 15分FTP 5分レスト x 2セット
木 30分SST x 1セット or オフ
金 イージー 1時間
土 ロング練習 3〜5時間 長い登りを含むと理想的
日 ロング練習 3〜5時間 長い登りを含むと理想的



平日トレーニングは主に固定ローラーを使用し、週末は実戦を想定した実走トレーニングを行う。「1〜2日くらいズレてしまっても大丈夫」と才田さん。出来る範囲で行うことが大切だと言う。
 
トレーニング期は身体を作るための栄養摂取を!
トレーニング期の栄養摂取について、桑原さんの口から飛び出したのは「糖質をしっかり摂る」という言葉。意外に思ったかもしれないが、ベースパワーの向上には長期的な適正体重の増加が不可欠だ。ハードなトレーニングでパワーアップを図った後には、タンパク質のみならず糖質の摂取もマストとなる。
さらにこの時期から還元型コエンザイムQ10を摂取するのもポイント。才田さんも「レースの1ヶ月前から飲用を始めています」と頷いた。
 
レース1週間前はテーパリング期
レース本番に向けて疲れを抜き、コンディションを整える『テーパリング期』。「体力は落とさずに身体機能を回復することに徹します」と才田さんはこのようなメニューを例に示した。
 

月 イージー 1時間
火 オフ
水 30分〜1時間 レースに近い強度
木 イージー 1時間
金 イージー 1時間
土 1分レースペース x 3 を含む1時間
日 レース

 
ポイントは休みすぎないこと。「あまりに楽なメニューが続いてしまうと逆効果の恐れも。水曜や木曜あたりに刺激入れをしてあげましょう。」
 
身体を内側から元気にする栄養摂取を
この時期の命題はずばり「風邪を引かないこと」だと桑原さん。胃や腸といった消化器系のコンディションを整えるという意味で、グルタミンの摂取は有効だ。「内臓を元気にしてあげるイメージで摂取してみてくださいね。」

ヒルクライマーが押さえるべき栄養成分とは?



桑原さんによると、アスリートには摂るべき栄養素に優先順位があるらしい。
人間が我慢できない順に大事だという。問いかけられて、参加者一同、首を傾げながら考えるもなかなか思いつかない。
 
まず、最初に意識すべきは「酸素」。栄養素ではないが、確かに我慢できるのは長くても数分程度だ。それから、水、ナトリウム(塩分)、炭水化物、たんぱく質と続く。そして最後に忘れてはならないのが、エネルギー生成に欠かせない還元型コエンザイムQ10だ。
 
では、桑原さんが考える優先すべき理由とソリューションの一部を抜粋して紹介しよう。
 
(1)酸素 
取り込んだ酸素が体内でうまく使えない状態ではベストを狙えるはずがない。せめてマイナスをゼロへ、酸素を上手に使える状態までもっていくために、意識したいのが鉄分。中でも、植物性の非ヘム鉄に比べて、吸収率が高い動物性の鉄であるヘム鉄を摂取したい。
 
(2)水分
人間の体の60%は水。そのうち、2~3%が減っただけでパフォーマンスが落ちることは科学的に証明されている。こまめな水分補給を欠かさないこと。
 
(3)ナトリウム(塩分)
日常において塩分は控えるべきだが、スポーツシーンでは、汗とともに大量のナトリウムが放出されるので、積極的に補う必要がある。ナトリウム不足は熱中症の原因となり、体が攣るという症状も起きやすい。
 
(4)糖質
糖質は言わずとしれたエネルギー源。ここで強調しておきたいのは、レース中の補給のみならず日頃からのグリコーゲンリカバリー。如何にグリコーゲンのタンクを一杯にしておけるか、ということ。グリコーゲンが足りない状態では脂肪も燃焼効率を著しく落とすことになる。とにかくグリコーゲンが減ったら、すぐにその材料を補充する癖をつけよう。
 
(5)タンパク質
ここでのタンパク質はBCAAを指す。レース中の血中のBCAA濃度を如何に高めておくかがパフォーマンスの向上と、レース後の筋疲労の回復に役立つ。

(6)この一連の酸素→水→ナトリウム→糖質→BCAAは、エネルギー生成をスムースにするための材料である。しっかりと取り込んだ材料を実際にATPというエネルギーにするために、総仕上げとして補充したいのが還元型コエンザイムQ10だ。材料が足りないとATPは作られないが、仮に材料が十分でも還元型コエンザイムQ10がなければ効率的にATPは作られない。大量のエネルギーが必要になるヒルクライマーは押さえておくべき栄養素といえる。

 
パフォーマンスUPのために還元型コエンザイムQ10を
パフォーマンスUPのために還元型コエンザイムQ10を
体内の細胞の一つひとつにあるミトコンドリアは、取り入れた糖質や脂肪などの栄養分を分解してエネルギーを生成する。その働きにおいて重要な役割を果たしているのが、ミトコンドリアに多く含まれるコエンザイムQ10。いくら食事などで栄養成分を取り入れてもコエンザイムQ10がなければ、効率的にエネルギーを作れないのだ。
 


レース本番に向けて重要なことは、という質問に、才田さん曰く、レース当日はメンタル面でのケアが大切だという。そのために補給食の準備や栄養管理も抜かりなく行おう。
「ウォームアップ時にジェルのコエンザイムQ10を舐めると精神的にも落ち着きます。結構メンタルケアって大切なんです。」
 
本番中に心配になるのが水分補給。「実は僕、レース中はあまり水分補給しないんですよね……」と苦笑する才田さんに、「それはちゃんと才田さんの身体が負荷に適応しているんです!」と桑原さん。普段から高負荷のトレーニングに耐えている才田さんだからこそなし得る所業であり、一般レーサーはしっかりと水分も補給せねばならない。
「『喉が渇いた』と感じた時点でもう遅いんです。先回りした補給を心がけるように!」
ここで摂取するのは水分に糖質とナトリウム、さらにBCAAをブレンドしたものがベストだと桑原さんがアドバイス。
 
そして、最後に触れておきたいのが、CoQ10ローディング。先に紹介した還元型コエンザイムQ10は継続摂取がおすすめ。「トレーニング期とレース期で使用しているが、身体の不調は感じず、プラン通りのトレーニングが積めています」と才田選手。普段は1粒(100mg)を目安に、レース5日前からは3粒ほど増やし、血中濃度を上げて、エネルギーが効率的に使える準備をしよう。

また、才田選手はこうも付け加えてくれた。
 
「春先の2月中旬頃から大きな休みを取らずにトレーニングとレースを継続して来たために疲労を感じていた時期に還元型コエンザイムQ10を飲み始めました。
レースでのパフォーマンスはあまり優れていませんが、今後のレースに向けてパフォーマンスのピークを作るべくトレーニングを継続できています。
疲れた状況で、さらに季節の変わり目では体調を崩すことも多いのですが、そのようなことが起きていないのはQ10やグルタミン入りのQ10を継続して摂取しているからだと感じています。
順調にトレーニングやレースを重ねている時期はもちろん、疲労と付き合いながらコンディションを回復させたり、整えたりする時期にもQ10を活用し続けたいと思います。」

 
ひと手間かけた分だけ、安心と自信に、そしてパフォーマンスの向上に繋がるのだ。

 
還元型コエンザイムQ10継続飲用による血中濃度の変化
還元型コエンザイムQ10継続飲用による血中濃度の変化
飲み続けることで、血中濃度は上昇し続けるため、継続飲用が大切。飲用を止めると、徐々にもとのレベルに戻ることが確認されている。

出展:K.Hosoe et al./Reguluatory Toxicology and Pharmacology 47(2007)19-28

 
他にも小ネタや裏技など会場だけのトークでも盛り上がった当日。最後には参加者から質問も多く飛び出し、熱気に包まれたまま終了を迎えた。今シーズンこそ最高の結果を残せるように、トレーニング面と栄養面の両方から見直してみてはいかがだろう。