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ツール・ド・台湾出場若手メンバーに聞いた”新城幸也をアシストする仕事”

レース
3月11日~15日の5ステージで行われたツール・ド・台湾。日本ナショナルチームとして出場した新城幸也が2秒差を守りきり、総合優勝を果たした。この結果によって、UCIポイントを大量獲得(総合優勝だけで125ポイント)。世界選手権の出場枠を決めるUCIアジアツアー国別ランキングは現状日本が1位だ。
いわゆる寄せ集めの即席チームで総合優勝をつかむ経験は、若手選手たちにとってどのような成長をもたらしたのか。ツール・ド・台湾から連戦して修善寺ロードレースに出場した、宇都宮ブリッツェンの小野寺玲選手と雨澤毅明選手に話を聞いた。




text:滝沢佳奈子
photo:BettiniPhoto©2018/滝沢佳奈子

 

小野寺玲選手

ツール・ド・台湾第1ステージで岡本隼の勝利を確信する小野寺選手(手をあげている中央)
ツール・ド・台湾第1ステージで岡本隼の勝利を確信する小野寺選手(手をあげている中央)
新城選手をアシストする小野寺選手(左から2番目)
新城選手をアシストする小野寺選手(左から2番目)
修善寺ロードレース2日目に出走した小野寺選手(右)は、集団前方で雨澤選手(左)とともにコントロール
修善寺ロードレース2日目に出走した小野寺選手(右)は、集団前方で雨澤選手(左)とともにコントロール
CS:どのように総合優勝までこぎつけることができたのでしょうか?

小野寺:幸也さんを中心に、今後の日本のためにもポイントを獲得して帰りたいということで、ステージ成績よりも総合成績の方がポイントが取れるので、チーム全体で雨澤さんと幸也さんを総合ポイント圏内に入れることを目標にしていました。幸也さんが絶対的エースなんですけど、雨澤さんも総合を狙えるだけの力があるので、その二人を軸としてレースをしていこうということになりました。

第1ステージで岡本(隼)が勝ったことで、リーダーチームになって、チーム全体として勢いがつきました。その次のステージでは岡本は総合に関係ないので捨ててもらって、攻撃を仕掛けたりとかして総合を狙う二人に有利な展開にチーム全体でもっていく感じで走っていました。山岳ステージまではそういう走りでしたね。その二人を温存させて、勝負させるところで勝負してもらうために他のチーム4人で支える感じの走りでした。


CS:小野寺選手は、総合リーダージャージを持っているチームで走るのは初めて?

小野寺:そうですね。しかもUCIの1クラスで。最終日前の第4ステージで幸也さんが「総合リーダーになっちゃった‼︎(笑)」って言ってて、アシスト陣としては、「うわーまじか!」って感じで。当初は、最終ステージのボーナスタイムで逆転して勝つっていう予定もあったんですけど、第4ステージの時点で取っちゃったので、みんなで次の日のハードワークを覚悟して臨みました。

幸也さんは格のある選手なので、僕らだけじゃなく、集団も幸也さんがリーダーであることを認めていました。(最終日は)割とすぐに攻撃も安静化して、僕らがコントロールするのに有利な展開にすぐなってくれたので、確かにキツかったはキツかったですけど、UCIレースでのリーダーチームってこんな動きなんだなっていうのがすごくよく勉強できたレースでしたね。


CS:ブリッツェンで走っているときと条件がかなり異なるかと思いますが、一番違ったのはどこですか?

小野寺:やっぱり寄せ集めのチームなので、(チームメイト)みんなを把握しきれていない部分もありますし、あうんの呼吸でぴったり合うわけでもないので、そういったところは臨機応変にやらなきゃいけないっていうのはありました。それでも絶対的エースの幸也さんが経験豊富なだけあって、選手それぞれに無線なりミーティングなりでアドバイスをこまめにしてくれたので、おかげで寄せ集めのチームでも良い連携が取れていました。

ナショナルチームで活動する上で、自分のチームとは違った環境、そしてより強い選手とやることが自分としても刺激的ですし、今回チームを離れてのこの活動はいい経験だったなと思います。


CS:新城選手はやはりプロトンの中でも別格に強かったと感じますか?

小野寺:エントリーしてるチームの中で最大がプロコンチネンタルチームまでで、ワールドチームはいなかったので、まわりから見られる目も、幸也さんの注目度も他の選手と比べて一つ上でした。それだけマークされる選手であるにもかかわらず、幸也さんはそれをものともしない走りであそこまでの成績を出したんです。

第1ステージのときとかも幸也さんの発言がプロコンチネンタルチームとかとは違って、自信にあふれた発言でした。本当にそんなことできるのか?と思うほど、「これやってあげるから」みたいなことを言っていて、それを本当に実行して、成績を残したので、さすがワールドチームにいるだけあるなって思いましたね。


CS:今回、小野寺選手自身どういうところが足りないと実感しましたか?

小野寺:山に入る前の平地とかでは、僕の脚質も生かせるので、そういったところでのポジショニングなどは自信持ってできたと思うんですけど、やっぱりどうしても上りに入ってからのアシストっていうのが、僕の登坂力が不足しているせいで、上れる二人に任せっきりになってしまったのが反省点です。台湾くらいの上りだったらもっと上れて、最後までアシストできるくらいの脚があっても良かったんじゃないかと後悔していますね。


CS:UCIレースで集団をコントロールするという経験はどうでしたか?

小野寺:最終日に前半からずっとコントロールしていましたけど、ふと後ろを振り返ったときに、何百人もの選手が僕の後ろにズラーッと並んでるのを見て、「やべぇ、この人数コントロールしてるんだ……!」ってうれしくなって(笑)。もちろんきついんですけど、そんなうれしくもきつくもいい初体験ができたなと思います。


CS:今後に向けて、どのように生かしていきたいですか?

小野寺:UCIレースでリーダーチームになれる経験っていうのは、そう簡単にできることではないので、幸也さんと走ることによって普段できない体験ができました。それによってUCIのステージレースで、他の強豪チームと非力な僕らがどういう風に力を合わせて闘っていくかといった術もみんなで話し合って、形にすることもできました。

どういったところで自分の得意分野を生かせるかも今回で大体分かってきてはいるので、伸ばすところは伸ばして、今回見つけた反省点は今後の日本のレースでも直していけるところがあるので、そういったところはしっかりやっていって、みんなに信頼されるような幸也さんみたいな選手になれたらなと思います。

 

雨澤毅明選手

雨澤選手は、上りのアシストとして新城選手を守った(写真前から4番目)
雨澤選手は、上りのアシストとして新城選手を守った(写真前から4番目)
修善寺ロードレース2日目終盤は、雨澤選手の先頭固定で集団をペースアップした
修善寺ロードレース2日目終盤は、雨澤選手の先頭固定で集団をペースアップした
CS:ツール・ド・台湾に出場してみてどうでしたか?

雨澤:すごく楽しかったですね。すごくいい経験をさせてもらって。メンバーが非常に良かったですし、幸也さんと走れたことも非常に大きかったレースでした。


CS:今まで新城選手と走ったことはなかったですか?

雨澤:去年のアジア選手権のチームTTで一緒に走ったことはありましたけど、ロードレースでしかも今回ステージレースでチーム一丸となって総合優勝を目指すっていうのはいい経験になりましたね。


CS:もともとチームとして、新城選手の個人総合優勝も狙っていた?

雨澤:幸也さんはもうバリバリに狙っていて、前提として自分と幸也さんがトップ10に入るっていうのはあるけれども、リーダーをとったのならば、もう優勝一本に絞っていこうっていうのは最初から決まっていました。幸也さんもステージを追うごとに総合順位も上がっていって、もうこれは優勝目指すしかないっていう状況だったので、そこは切り替えてやっていきました。


CS:総合リーダージャージを持つチームの仕事をやってみて実際どうでしたか?

雨澤:疲れましたね(笑)。肉体的にも精神的にも疲れるものがありましたね。最終日だけでしたけども、2位と2秒差しかない状況で、何が起こるかわからないし、ずっと油断できない状態だったので非常に疲れました。でも、取れて良かったという喜びと安堵感はすごくありました。


CS:今までのレースと一番違う点は何でしたか?

雨澤:今までのナショナルチームの活動だと、大体ヨーロッパ遠征で、正直あまり勝負ができるっていう状況ではなかったんですね。ヨーロッパだとやっぱり力の差があるので、挑戦という形になる。

今回ははっきりと目標があって、勝てる選手がいる中ではっきりと勝負するぞっていう形で、じゃあどうやって勝っていこうかと考えていくことが、今までのナショナルとはちょっと違うのかなと思いました。今まではそれはアジア選手権くらいだったので。


CS:新城選手と走ってみて、自分には足りないものが何か見つかりましたか?

雨澤:勝負勘が全然違いますね! 抜群に見る目があって、本当に視野が広いんですよね。レース後に、「ああいう選手いたよね」っていう話もたまにあるんですけど、「そんな人いましたっけ?」って思うことが結構あるので。本当に集団のいろんな選手を見ていて、だからこそ勝負どころを見分ける力もあるのかなと思いましたね。常に余裕を持って、広い視野を持ってレースを進めているっていう印象がありましたね。


CS:広く視野を保てるくら、いいっぱいいっぱいにならないようにする必要がある?

雨澤:多分いっぱいいっぱいになっても見る余裕があるんですよね。


CS:昨年のU23でのシーズンとは違って、海外遠征が減りますが、国内の活動メインで何を鍛えていこうと思いますか?

雨澤:絶対的な実力がないと話にならないので、どこを何するっていうわけではなくで全体ですね。そこはずっと変わらないところであって、力があれば何も問題ないんですよね。どんな展開でも引っくり返せる。そういう力がないと、話にはならない。まだまだそういう力はなくて、結局はそこを上げないとです。

今シーズンは、ナショナルの遠征は去年に比べたら少なくはなるんですけど、今回の台湾の遠征でも大量にUCIポイントを獲れたので、世界選手権出場枠も3枠取れるんじゃないかっていうところです。そうなった場合は、自分も今年は世界選出場も狙っていきたいなと考えてます。


CS:東京オリンピックも視野に入っているんでしょうか?

雨澤:もちろん、東京オリンピックも出たいなとは思っています。そこで活躍したいっていうのもありますけど、それよりも目先のものを見てクリアしていこうという感じです。