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2019全日本TT、女子・與那嶺が連覇、男子・増田が見せた笑顔

レース

富士スピードウェイでのオリンピック前年の戦い


いよいよ今年も日本一を決める戦い、全日本選手権が始まった。6月27日(木)、初日は全日本選手権個人タイム・トライアル・ロード・レース大会ならびに日本パラサイクリング選手権・ロード大会が開催された。来年の東京オリンピックのゴール地点でもある富士スピードウェイに設定された1周13kmの特設コースで行われた。

text&photo:滝沢佳奈子
 

女子エリート、與那嶺の危なげない走り

出走前にコーチと話をする與那嶺
出走前にコーチと話をする與那嶺
與那嶺は、落ち着いた表情でスタートを切った
與那嶺は、落ち着いた表情でスタートを切った
女子U23でチャンピオンジャージを手にした梶原
女子U23でチャンピオンジャージを手にした梶原

女子の全カテゴリー、男子ジュニア、U17+U15は午前中に行われた。午前中は曇りで、雨が降ることなく天気はなんとか持ちこたえた。

午前10時5分よりスタートしていった女子エリートと女子U23混走のカテゴリー。二つのウェーブに分けられ、22名が13kmのコースを2周で争った。

第1ウェーブでは、福田咲絵(慶應義塾大)が41分46秒で暫定トップタイムをたたき出す。11時からの第2ウェーブがスタートしてもしばらく暫定タイムが上塗りされることはなかった。

第2ウェーブ最終走者は、前年度優勝者であり、UCIワールドチームで春のクラシックシーズンから大いに活躍を見せている與那嶺恵理 (Alé Cipollini)。連覇に大きく期待がかかっているものの、非常に落ち着いた様子で走り出した。それでも與那嶺が実力を示すのにはたった半周で十分だった。半周の時点で、福田の通過タイムよりもおよそ20秒上回っており、1周目が終わる頃にはその差はおよそ1分となった。

1周目終盤には前走者である唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム)を抜き去り、2周目の最後のホームストレートでは2走前の梶原悠未(筑波大)もパスしてフィニッシュラインに飛び込み、優勝を確定させた。

また、女子エリートと合わせて総合で4位に入った梶原はU23カテゴリーで優勝した。

 

「全日本は勝つのが目的」

上り区間もTTポジションキープで駆け抜ける與那嶺
上り区間もTTポジションキープで駆け抜ける與那嶺
走り終えた與那嶺は、「まずはTTで一勝。一安心です」と一息。笑顔を見せた。今シーズンもウィメンズワールドツアーで走る與那嶺だったが、個人TTのレースの機会が今年はまだなかった。

「自分でもこの40分の全力走が今年初めてなので、自分でもTTでどれくらいパワーが出るか、今年のアップデートができていませんでした。とりあえず1周目は無線で(コーチに)コントロールしてもらってという感じでした」と振り返る。

2周の26kmという距離をどのように計画して走る予定だったか聞くと、「TTは特にないです」とあっさり答えた。

「試走が2周しかできなくて、ラインが読みにくいコーナーも多かったので、とにかく安全に。TTバイクはロードに比べてやっぱり挙動とかスピードの伸びが違うので安全に走っただけです」と続けた。

明後日に行われるロードレースの方も連覇がかかる。與那嶺の抜きん出た実力を考えると、ロードレースさえ昨年のような独走の展開も考えられる。しかし與那嶺は、「わからないです、去年みたいに長い上りがない。上って下ってのインターバル的なレースになると思うので、ロードはロードでまた走り方が変わってくると思います。でもやることは変わらない、ペダルを踏むだけです」と前を向く。全日本は”勝つ”ためのレースであり、目標としているのは世界。来年同じ地で行われる東京オリンピックに向け、彼女に足踏みをしている暇はないのだ。
 

男子U23は、今村が制する

トラックナショナルチームでも活躍する今村は非常に深い体勢でアップをする
トラックナショナルチームでも活躍する今村は非常に深い体勢でアップをする
雨が一番降っていた時間に出走となった男子U23カテゴリー
雨が一番降っていた時間に出走となった男子U23カテゴリー

女子レースが終わると、空を厚く覆っていた雲が雨雲に変わり、だんだんと雨粒も大きくなってきた。路面もウェットな状態になっていく中で男子U23の出走が始まった。本降りになってきた頃、懸念された落車もいくつか発生。

38人中、最後の走者となったチームブリヂストンサイクリングの今村駿介がトラックで培った安定したフォームで走りきり、2位と1分9秒の差をつけて優勝を決めた。
 

男子エリート、指標タイムは岡

低い体勢で走る岡。雨は小降りになってきたものの、路面は相変わらずウェット
低い体勢で走る岡。雨は小降りになってきたものの、路面は相変わらずウェット
第1ウェーブで岡が出した記録は、第2ウェーブに入ってもなかなか破られることがなかった
第1ウェーブで岡が出した記録は、第2ウェーブに入ってもなかなか破られることがなかった

男子U23が走り終わってすぐに出走が始まった今日最後のカテゴリー、男子エリート。こちらも二つの組に分かれ、14時10分より開始された。第2ウェーブには、前年度優勝者の窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)や準優勝者の近谷涼(チームブリヂストンサイクリング)、全日本タイムトライアルのタイトルを狙い続ける佐野淳哉(マトリックスパワータグ)などの日本を拠点とする選手たちだけでなく、ワールドチームの2人、新城幸也(バーレーン・メリダ)と別府史之(トレック・セガフレード)までもが顔を揃えた。優勝候補ばかりの第2ウェーブ前に誰がタイムの指標を作るかに注目が集まる。

第1ウェーブで指標となるタイム、それどころか非常に大きい壁を打ち立てたのは、最終走者の岡篤志(宇都宮ブリッツェン)だった。今年のツアー・オブ・ジャパン堺ステージのショートタイムトライアルも制した空気抵抗の少ないフォームで3周39kmの距離を56分17秒で走り切った。
 

増田、岡、別府、三つ巴の戦い

深く息をゆっくり吐きスタートの時を待つ増田
深く息をゆっくり吐きスタートの時を待つ増田
新型のTTバイクを駆る増田が順調にタイムを伸ばす
新型のTTバイクを駆る増田が順調にタイムを伸ばす
最後から2番目の走者となった別府。直近ではベルギーツアーで個人TTを走った
最後から2番目の走者となった別府。直近ではベルギーツアーで個人TTを走った

第2ウェーブが15時15分にスタートしていくと、1周目完了時点で岡のタイムを破る選手はおらず。しかしその半周後、2周目の中間地点でチームメイトである増田成幸が岡の通過タイムを8秒更新した。増田は、ツアー・オブ・ジャパンの伊豆ステージで落車し骨折を負い、これが復帰戦だった。

増田よりうしろ、最後から2番目の出走となった別府も後を追う。増田が暫定トップに躍り出た2周目の中間地点での別府のタイムは、増田から+14秒。しかしそこからフィニッシュまでにタイム差を詰めることは叶わなかった。

増田は快調に飛ばし、岡が出したタイムを上回っていく。最終的に岡のタイムを11秒上回ってフィニッシュラインを切った。
 
「自転車の上に止まることがまず一つの目標」と慎重に走った新城幸也は7位に
「自転車の上に止まることがまず一つの目標」と慎重に走った新城幸也は7位に
前年チャンピオンの窪木は落車により、優勝争いからは脱落した
前年チャンピオンの窪木は落車により、優勝争いからは脱落した

上がる祝福の声、笑顔咲く

戻ってきた清水裕輔監督と抱き合う増田
戻ってきた清水裕輔監督と抱き合う増田

ピットに戻りダウンをする増田の元に、「優勝確定しました!」の声がかかると、スタッフやチームメイトたちの歓声が上がった。増田の表情にも、過去の全日本選手権では見たことのない満開の笑顔が咲いた。増田は、優勝争いを演じたチームメイトの岡とも健闘を称え合い、「今日は勝たせてもらったよ」と冗談めかし、握手を交わした。他チームの選手からも祝福の声が多くかけられていたようだった。
 

「諦めなくて良かった、投げ出さなくて良かった」

笑顔を見せる増田。チームメイトにサムズアップを送る
笑顔を見せる増田。チームメイトにサムズアップを送る
最後の上りを終えて、ホームストレートに入る増田
最後の上りを終えて、ホームストレートに入る増田
十数秒の争いになったのは結局この3人のみだった
十数秒の争いになったのは結局この3人のみだった

優勝が決まった直後、感想を求めると、こう返ってきた。

「TOJで落車してから一週間まったく自転車に乗らずに安静にしていました。骨が折れていたので、医者から3週間安静にしろって言われていたんですけど、でもその次の週からリハビリを始めて、3週間、国立スポーツ科学センターに泊まり込みで、朝9時から夕方の6時半までずっと、昼休みもほぼなしで、時間を惜しんでリハビリをして、プライベートを全部自転車に注ぎ込んだというか、本当に家族にも支えてもらって。

まだ信じられないですけど、こうやって勝てたので、本当に報われたなと思いましたね。実際こんないい走りができると思わなかったし、自転車を外で乗り始めて10日とかなんですよ。こうやって勝てたのはしぶとく諦めずに、ポジティブに頑張ってきたおかげだったんだなと思って、すごくうれしいです」

まだ信じられないと繰り返す増田の声は何だか少し震えていた。

TOJで骨折し、この全日本選手権まではちょうど1か月だった。勝つどころか出場が可能かどうかさえ分からなかった。

「その時点では本当に暗くなりましたね。TOJでもポイント取れなかったですし、取れたんですけど、本来取るべきポイントを取れなかったし、一番大事な全日本も控えているのになんでこんなんになってしまったのかなと思ったんですけど、本当に諦めなくて良かった、投げ出さなくて良かった。とにかく1mmでも前に進もうと思ってやったら勝てました」

しかも今回は、ワールドツアーの二人もそろった近年の全日本選手権では稀に見るフルメンバーでの戦いと言っても過言ではないの中での優勝。どんな思いで走ったのか。

「今日のコースは本当にテクニカルだし、(ホーム)ストレートも1.5往復するし、上りも下りもあってバランスがいいコースで。下りはすごい苦手だったんですけど、上りもたくさんあるし、自分向きだなとは思っていたんです。だからなおさらベストなコンディションで臨みたかったんですけど、でも自分自身、本来の調子とは程遠い印象だったんですね。だけど今日は今日のベストを尽くそうと思って、一生懸命全力を尽くした結果です。チャンピオンになれて良かったです」

毎年優勝候補に名前が挙がる増田があんなにも欲していた全日本チャンピオンジャージ。TTとはいえど、そのジャージにやっと袖を通すことができた。幾度となく逆境に立ち向かう増田の目には、その着心地が、表彰台の一番高い景色がどう写っただろうか。ただ、増田にとってこれは決してゴールではない。日曜日には本命のロードレースも控える。さらには来年の東京五輪に向けても追い風になるといい。逆境はもうたくさんだ。

女子エリート+U23のロードレースは29日(土)の13時15分からスタート、男子エリートのロードレースは30日(日)9時からスタートする。

 

第23回 全日本選手権個人タイム・トライアル・ロード・レース大会 リザルト

男子U23(13kmコース×2周=26km、出走者38人、完走者35人)

1位 今村 駿介 (チームブリヂストンサイクリング) 37分9秒
2位 石原 悠希 (インタープロサイクリングアカデミー) +1分9秒
3位 大町 健斗 (チームユーラシア・IRCタイヤ) +1分22秒


男子エリート(13kmコース×3周=39km、出走者37人、完走者35人)

1位 増田 成幸 (宇都宮ブリッツェン) 56分5秒
2位 岡 篤志 (宇都宮ブリッツェン) +11秒
3位 別府史之 (トレック・セガフレード) +13秒


女子エリート(13kmコース×2周=26km、出走者22人、完走者22人)

1位 與那嶺 恵理 (Alé Cipollini) 40分38秒
2位 福田 咲絵 (慶應義塾大) +1分7秒
3位 上野 みなみ (シエルブルー鹿屋) +1分26秒


女子U23(女子エリートと混走)

1位 梶原 悠未 (筑波大) 42分44秒


 
男子ジュニアは飯田風越高校の山田拓海が津田悠義(三好高校)に6秒差をつけて勝ち切った
男子ジュニアは飯田風越高校の山田拓海が津田悠義(三好高校)に6秒差をつけて勝ち切った
男子U17+U15合わせての総合トップはボンシャンスの篠原輝利
男子U17+U15合わせての総合トップはボンシャンスの篠原輝利
コース1周で争われた女子ジュニア+女子U17は岩本杏奈(日本体育大)が優勝
コース1周で争われた女子ジュニア+女子U17は岩本杏奈(日本体育大)が優勝

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