ニュース

2019全日本 與那嶺、貫禄の独走勝利。男子U23は右京・武山が制す

レース
6月29日(土)、昨日と同じく富士スピードウェイにて全日本自転車競技選手権大会ロードレースが開催された。今日は午前中に男子U23が、午後からは女子エリートとU23の混走の2カテゴリーが出走した。昨日と同じく1周10.8kmのコースで、男子U23は濃霧の影響で15周から11周に短縮、女子エリート+U23は予定通り13周で争われた。

text&photo:滝沢佳奈子
 

あわや中止、濃霧の中の男子U23の戦い

集団先頭には有力勢が常に顔を揃えた状態
集団先頭には有力勢が常に顔を揃えた状態
短い上りでは蠣崎が集団から抜け出そうと試みる
短い上りでは蠣崎が集団から抜け出そうと試みる
今村は下りで単独先頭に出るも、すぐに吸収
今村は下りで単独先頭に出るも、すぐに吸収
午前7時、数m先も見渡すことができない濃霧が会場である富士スピードウェイを包む。あまりの見渡せなさに危険とみなされ、午前8時スタートを予定していた男子U23の出走は9時からに変更が決まった。周回数も15周のところをニュートラル1周を含む全11周に短縮された。

9時にスタートしていくと徐々に霧は薄くなっていく。代わりに終盤にかけてかなり強い雨が地面を打ち付けた。

ニュートラルが解消され、リアルスタートが切られると数人の選手たちが抜け出しを図る。しかし、集団から大きなタイム差をなかなか奪うことができず1周する間には吸収されていく展開。その中でも148人という大所帯は徐々に人数を減らし、メインの集団は50人ほどとなった。

序盤から昨年優勝者の石上優大(AVC AIX EN PROVENCE )や渡邉歩 (Les Sables Vendée Cyclisme)、TT優勝者の今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)や同チームでスプリント力のある沢田桂太郎などの有力勢は集団前方に常に位置する。

今村は中盤にかけて自ら抜け出すシーンも見られた。それはチームのためというよりも自身の勝利のための動きだった。今村はこう振り返る。

「チームとしては沢田が仲間っていう形でしたが、スプリントになったら負けちゃうので、できるだけ少人数で勝負したいなと思ったんですけど、ダメでした。何回かチャンス伺っていたんですが実らずという感じですね」

8周目に入ると、早稲田大の小野寛斗が単独で先行。一方、集団から9周目の上り区間で武山晃輔(チーム右京)が飛び出すと、反応したのは今村、白川幸希(ヴィクトワール広島)、中村圭佑(鹿屋体育大)、蠣崎優仁(エカーズ)の4名だった。有力なメンツが揃い、レースが大きく動くと考えられたが、足並みがうまく揃わず、ペースを上げることができないまま集団とのタイム差は最大でも40秒ほどまでしか開かず、1周する内に吸収された。

レースが振り出しに戻されると、集団のまま最終ラップに突入した。そのあたりからこれまでで一番強い雨が降りつけ、コースを水で浸していく。石上らの揺さぶりもあり、集団は20人ほどに絞られた。

ラスト1km、最終上りコーナーの立ち上がりで武山が渾身のアタックを繰り出すと、誰もそれにつくことができなかった。遅れて沢田が踏み込むが、最後のホームストレートのゴールラインまではまだ少し距離があり、本気で踏むことを躊躇した。先手を取った武山は、振り返ったらダメだとラスト400mを出し切ることだけに集中する。ラインを切るまで差し切られる不安が残り、一番にフィニッシュを切っても「気の利いたガッツポーズもできなかった」。
 
「自分のペースでクリアしていくほうが楽」と集団先頭を走る姿が多く見られた沢田
「自分のペースでクリアしていくほうが楽」と集団先頭を走る姿が多く見られた沢田
レース中盤、小野が単騎で抜け出した
レース中盤、小野が単騎で抜け出した
今村、武山らが集団から抜け出す
今村、武山らが集団から抜け出す

ラスト1kmで飛び出した武山、豪雨の中で勝利を掴む

踏み切った武山がゴールラインを一番に切った
踏み切った武山がゴールラインを一番に切った
武山を捲ることが叶わなかった沢田はハンドルを叩く
武山を捲ることが叶わなかった沢田はハンドルを叩く
同い年3人が表彰台では笑顔を見せる
同い年3人が表彰台では笑顔を見せる

勝利した武山は、レースの展開についてこう振り返った。「ただ走っているだけで脚にくるような印象で、一瞬だけ逃げに乗ったりもしましたが、基本的にはずっと集団にいて。逃げ出したいなと思いつつもうまく展開を作っていくことができず、最後は無理なのかなと若干諦めの気持ちがあったんですけど、毎回勝つときは自分が攻めているときなので、最後は自分の力を出し切れるところまでやってみようと思って最終コーナーの立ち上がりのところで飛び出してできる限り踏み切りました」

単騎での参戦であった武山がマークしていたのは今村ただ一人だった。

「自分一人で対応できる数には限界があるので、基本的に本命は今村で、一緒に逃げに乗れるようであれば協力できるだろうし、そこを逃さなければお互いプラスなのかなという。どういった展開でも今村中心で考えていくべきかなと思っていました」

最後の飛び出しでもついてくるのは今村だと考えていた。

「今村の反応が最初良くなかったので、脚ないのかなって調子乗って踏んだのはいいんですけど、ストレートに出た瞬間から脚きつくて(笑)。雨すごすぎてスローパンクしてるのかなっていうくらい回らない感覚もあって。本当に刺されるんじゃないかなと思いながら」

一方で勝つ自信とその準備にも抜かりはなかった。

「学生レースの規模ほどは自信はなかったんですけど、でもやれることはやってきたかなっていうのはあって。これまでチームの活動と大学の活動があって、走っているレースの感覚としてはかなり良くて。最後このレースに向けた調整もうまくできて、準備はかなりうまくできていました。仮にそれで勝てなければそれが今の自分の限界かなと割り切れるくらいには調子は良かったと思うので。走ってみたら若干脚重いなって焦ってはいたんですけど、自信というか走る前から後悔というか、あれしとけばよかった、これしとけばよかったっていうのは何もなかったです」

マークされた今村、武山を捲りきれず2位となった沢田、二人のブリヂストン勢もロード選手としての成長著しい存在だ。両名ともにチームメイトの存在が大きいと語る。国内のJプロツアーでも結果を出し始めた今村にとって、特にエリートの窪木一茂の存在は大きい。

「窪木さんとはトラックでも一緒に走っていて、合宿とかでも話を聞いて、いろいろ改善して、それが成績に出てきているので、良い方向に進んでいるのかなと思います」と話す。

直近で狙っていることについて聞くと、「一応チーム内でもオムニアムを目指せる立場にいるので、密かに東京五輪を目指せるように頑張っています」と答えた。

結果を出し始めた今村に対して、同い年の沢田にも対抗心が芽生える。

「ロードを本格的に始めたのが今年の4月とかからなので、全然まだまだ伸びるかなという感覚はあります。チームのレベルが高くて、エリートの選手が強い選手ばかりで、今村も同年代だけどJプロツアーを勝っているし、強いなと思っています。今村に負けないと頑張らないとなと思います。やっぱり同い年なので比べられちゃう。脚質も似たようなもんなので。似てるのに向こうの方が上だったらやっぱり悔しいし、頑張らないとっていうのはあります。しかも高校生の時からずっと一緒にやっているので、悔しいですけど今の力の差は認めているので、早く追いついて追い抜けるように頑張っていきたいです。

地味に狙っているのが、全カテゴリーで全日本優勝したいと思っているんです。U17、ジュニアと勝ってるんです。あとU23勝てばあとはエリートじゃないですか。エリートは期間が長いので。U23は4年間しか取れないので。今日取れていればよかったんですけど。来年は力で勝てるように頑張ります。」

武山、今村、沢田、3人が同じ学年だ。高め合う存在がいることで、今後どう化けていくか、楽しみにしたい。
 

雨降りしきる女子レース、圧倒的な力の差

スタートを切る女子エリート+U23
スタートを切る女子エリート+U23
序盤は集団ひとかたまりで推移
序盤は集団ひとかたまりで推移

13時15分にスタートした女子エリート+U23の混走。雨が降りしきる中、スタートラインに立った60人の選手たち。中でもやはり注目は連覇を成し遂げる與那嶺恵理 (Alé Cipollini)である。ディフェンディングチャンピオンとして前年度上位の金子広美(イナーメ信濃山形)や牧瀬翼(IKEUCHI EXIT)とともに前列中央に並んだ。

スタートを切ると、2周目までは集団のまま。3周目の上り区間で與那嶺がペースを上げるとたまらず集団は早速9名に絞られた。

さらに5周目、残り6kmの上りで與那嶺がアタックすると、徐々に集団を突き放し差を広げた。「ここで一人になる予定ではなかった」と與那嶺は言うが、これこそが実力の差であった。

追走は7人。金子や牧瀬、樫木祥子(チームイルミネート)などが含まれた。だが、與那嶺に追いつくことはできず、2位争いに専念することになった。半分以上の距離を単独で逃げ続けた與那嶺が連覇を決めた。
 
ダンロップコーナーをクリアしていく與那嶺
ダンロップコーナーをクリアしていく與那嶺
2位争いをした牧瀬、金子、樫木の3人
2位争いをした牧瀬、金子、樫木の3人
ただひたすら、レース全体の半分以上の距離をひた走る
ただひたすら、レース全体の半分以上の距離をひた走る
完走への最終便は主にU23の戦い
完走への最終便は主にU23の戦い
女子U23カテゴリーで優勝した梶原悠未(筑波大)は、「與那嶺さんの最初のペースアップについていけなくて悔しい」と話した
女子U23カテゴリーで優勝した梶原悠未(筑波大)は、「與那嶺さんの最初のペースアップについていけなくて悔しい」と話した

「まずは私のことを倒してください」

ゴールラインを切り、安心した笑顔を見せる
ゴールラインを切り、安心した笑顔を見せる
単純にかっこいい、圧倒的な力を見せての勝ち方をした與那嶺だが、世界の舞台では逆に埋めきれない力の差を痛感し続けている。今回のような自分のために走るレースと、ヨーロッパでチームのために走るレースにはどんな違いがあるのだろうか。

「チームのために走る方が楽ですよ。気持ちは。自分ができる限り仕事をすればいいので。これ(全日本)は勝たないといけないので。1位以外意味はない。チームでのレースは仕事をすれば意味があるので」

TTでも同じことを話していたが、全日本は勝つためのレース。それだけに怖さも持つ。

「自分の体は自分で分かってますけど、メカトラとか不可抗力がないようにっていつも願いながら走っています」

今回のレースでの優勝争いという面では、13周中たった5周で勝負はほぼ決まっていた。1位と2位争いのタイム差は、切実な日本女子レースのレベルを表していた。

「みんな私のことを見て、全然アグレッシブなレースじゃないんです。今日だって1対7とか6になったときに、ジャンプしてこないと何も(起こらない)。今日は1位と2位争いで別のレースをしていました。私はそれを狙って逃げたんですけど。でもやっぱりそうしていたら強くならないと思います」

與那嶺が思う日本女子のレベルを上げる方法とは。

「まずは私のことを倒してください。それだけです。」

自らが立ちはだかる壁であることを誇示する。そしてこう続けた。

「私もかかってこられたらもっと全日本でプレッシャーかかりますし。でも、怖いんですよね。それでもリスクを負わないと自転車って勝てないので。やってみたら2位になれたのが10位、15位、DNFになってしまったりするのもロードレースですし」

ロードレースという競技の難しさを話す。自分が勝てないときのほうが多いこの競技で気持ちを折らずに走り続けるモチベーションは一体どこから生まれるのだろうか。選手として最終的な目標について聞くと、「ワールドツアーのどこかステージで、ワンデーでも勝てたら引退しようと思ってます」

そう笑った。與那嶺はまた主戦場であるヨーロッパに戻り、世界トップとの差を実感することになるだろう。今後さらに上を目指すために何を突き詰めていくべきと考えるのだろうか。

「私もそれをずっと考えているんですけど、わからないんです」

誰も到達したことがない位置にいるのだ。強くなるために悩み、成功と失敗を繰り返す。與那嶺の長い旅はまだ続く。

第88回 全日本自転車競技選手権大会ロード・レース リザルト

男子U23(10.8kmコース×11周=118.8km、出走者148人、完走者56人)

1位 武山晃輔(チーム右京) 3時間7分33秒
2位 沢田桂太郎(チームブリヂストンサイクリング) +0秒
3位 今村 駿介 (チームブリヂストンサイクリング) +8秒


女子エリート+U23(10.8kmコース×13周=140km、出走者60人、完走者13人)

1位 與那嶺 恵理 (Alé Cipollini) 4時間19分42秒
2位 金子広美(イナーメ信濃山形) +3分47秒
3位 樫木祥子(チームイルミネート) +3分47秒


女子U23

1位 梶原 悠未 (筑波大) 4時間32分21秒