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ツール・ド・とちぎ最終日、ポッター総合守り切る! 地元ブリッツェンは記憶に残る攻めの走り
レース
2018.03.26
text:滝沢佳奈子
photo:滝沢佳奈子/長谷川拓司/©2018TdT
早くも最終日、作戦続行か切り替えか
スタートからアタック合戦が勃発。逃げグループができては潰されが繰り返される。序盤で逃げを作ろうと飛び出したマトリックスパワータグの佐野淳哉は、
「僕が逃げたときは(リュブリャナ・)グスト(・ザウラム)が追ってきてたんですよね。行けるかなと思ったんですけど、思いの外早くに捕まっちゃったんで、残念でした。結局スプリントポイントまで今日は逃さないっていう基本的な方針だったんですよね。風も意外とあったんですよ。あと、緩やかな起伏で。引き始めたら結構きついかなっていうのと、後ろがあんまり止まらなかったんです。スプリントポイントの前までに集団でも結構(逃げに)行きたい人は多かったので」
と集団の様子を振り返る。
山岳賞のレッドジャージを着用するシマノレーシングの湊諒は、このステージで2つの山岳ポイントを2回とも取られてしまうとレッドジャージを奪われしまう。そのため、序盤から逃げに乗ろうと必死にアタックを繰り返すが、それも決まらなかった。
レース前に、逃げにトライすると話していたマトリックスパワータグのホセ・ヴィセンテ・アルコレアが有言実行。キナンサイクリングチームの新城雄大とLXサイクリング・チームのキム・クンスとの3人の逃げ決まったかと思いきや、山岳ポイントに向けて逃げを潰しておきたいシマノレーシングが追い始め、タイム差は最大でも40秒ほどしかつかず。スプリントポイント5kmほど前の地点で吸収されてしまった。
スプリントポイントまでラスト2kmほどのところで集団は一気に加速。スプリントポイントでは、なだれ込むようにトビー・オーチャード(オーストラリアン・サイクリング・アカデミー・ライド・サンシャイン・コースト)、増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン)の順で通過。総合2位につけている増田が2秒のボーナスタイムを獲得した。
スプリントポイントを過ぎた丘でまた湊はアタックをするが、やはり後ろには逃げにどうしても乗りたい選手たちが付いてくる。
「あぁやっぱみんな行きたいんだな……って感じで。だったらもうジョイントする動き、誰かが行ったら追走して、もしかしたらっていう動きを狙ってたんですけど、やっぱり集団のまま行っちゃいました。」
宇都宮ブリッツェンの”攻める姿勢”
ブリッツェンの鈴木譲は、チームとしての作戦をこう語った。
「今日は最初のKOMポイントが割ときつめで、下りも結構危険なので、まずそこで絶対仕掛けようっていうのは言ってました。自分たちは、上りは攻撃することしか考えてなかったので、いかに(人数を)絞るかっていうところで先頭を積極的に雨澤に引いてもらいました。山岳賞は基本的には無視。
実際仕掛けたんですけど、上りのある程度きつい状態のところで、(鈴木)龍選手がパンクしちゃったんですよね。パンクしたので、攻撃継続はできないなと思いました。4人になったので、下ってからは一回ちょっとストップしようかなと思ったんですが、リーダーチームがもう2人しかいなくて。
絞られた瞬間からアタック合戦が始まってて、リーダーが自分から(先頭を)引く場面が多くなってたので、下ってからは龍を待つ方向では行くけど、アタックには必ず乗ってこうっていう形に切り替えて。乗ってかないとうちが引かされることになるので。オーストラリアが動いたら乗ってってという話はしてたんですけど、チーム右京がかなり積極的でロビー・ハッカー選手が上りも強くてガンガン行ってたので、そこに篤志が飛びついていって、逃げが決まったって感じでしたね。そこに龍がちゃんといて、波状攻撃ができたらもっと良かったんですけど。」
残り20km、岡が単独で飛び出し
山岳ポイントを過ぎ、逃げとメイン集団とのタイム差は最大で2分ほどまで開いた。ペースが緩んだメイン集団には、上りの攻撃で落ちてしまったリーダーチームのメンバーが復帰し、集団のコントロールに入る。そこに最終ゴールスプリントに持ち込みたいチームが集団牽引に加わり、結果的にはオーストラリアン・サイクリングを助ける形となった。
ツール・ド・台湾のスプリントステージでも勝利を挙げた岡本隼でスプリント勝負をしたい愛三工業レーシングは、ダミアン・モニエを先頭に、早川朋宏、阿曽圭佑が集団を引く。
「80kmくらい、逃げが決まって、(タイム差が)1分50秒くらいになってからうちのチームが引き始めました。みんなで前へ上がっていって、最初はダミアンも逃げるつもりでアタックとかをしてて、4人の逃げでタイム差が開いて、うちとリーダーと他のチームとで引き始めた形でした」
と阿曽が話した。
一方、逃げグループからは石原が落ち、3人に。均等に先頭交代をしていくも、疲れからかなかなかペースが上がらない。集団とのタイム差も徐々に詰まってきた頃、残り20kmを過ぎたあたりで、岡が単独アタック。
「昨日先頭集団でゴールできていれば、今日スプリントポイントを取って、ボーナスタイムで逆転するっていう選択肢がまだあったんですけど、昨日完璧に遅れてしまったので、何かやらないとっていうのはありました。
ハッカー選手が総合で増田選手とほとんど同タイムで、一緒に行ってしまうと彼が総合優勝してしまうっていうのもあって、他のメンバーももう引けなくて、ペースがどんどん落ちてきたので、このまま捕まるんだったら最後まで一人で行ったほうがいいかなと思って飛び出しました」
と、総合優勝に向けて突破口を切り開くべく自ら飛び出したのであった。
岡が単騎でいいペースを維持したため、集団とのタイム差は少し広がった。フィニッシュ地点に集まった観客の多くは、岡の”男の走り”に歓喜するとともに、一人でフィニッシュラインに飛び込んでくる場面を夢見て祈った。集団内では、3人とのタイム差が広がったという認識で、残りの2人が落ちてくるまで岡が単独で逃げているという情報は入ってこなかったそうだ。また、集団でも位置取り争いが勃発しており、どこのチームも主導権を取りたがっている様子だが、スピードが上がりきらない。
岡は、
「タイム差が一回広がって、もしかしたらっていうのはあったんですけど、その後の道が幅も広いし、まっすぐすぎて、絶対集団が有利だろうなっていうのは思っていて。残り5kmくらいでもう無理だなって正直思ったんですけど、行けるところまで行こうと思って」
とアウタートップ、TTポジションで踏み込んだ。
チーム右京は、3位につけるクレダーの総合順位を上げるべく、ゴールスプリントで与えられる10秒のボーナスタイムを獲得したがった。
「ロビー(・ハッカー)が逃げていて、先頭が3人で行ってると思ってたんですけど、岡選手が(単独で)1分差で逃げているという情報をまったく知らなくて。(ハッカーが)戻ってきたときにそれがやっと分かって、残り距離があんまりない状態で焦って前を引き始めたんですけど、結構全開で前引いて、早い段階で秒数は減ってったんで、まぁ追いつくだろうなという感じでした」
と話す吉岡直哉(チーム右京)。集団は一気に追いつかず、岡に対して徐々にプレッシャーを与えながらタイム差を縮めていった。そして岡の全身全霊のラストチャレンジは残り3km地点で潰えた。
最終ステージ、ラストスプリント
岡本は、
「風向き的にはそっち(右側)から行ったほうが良いとラスト300mくらいのときに思いまして、思っていたよりコーナーが急だったことと、自分の判断ミスと力不足で勝てなかった。2位という結果には満足してないし、悔しいです」
とチームメイトの働きに応えられなかったことを悔やむ。
ステージ優勝とポイント賞を獲得したクレダーは、前日の落車のケガが、最終日の朝になって非常に痛んだという。
「今日のステージでずっとチームメイトが自分の風よけになってくれた。チームが自分を勝たせようとする気持ちがすごく伝わってきた。そのおかげで最後に前に出ることができたんだ。総合のジャンプアップもあるし、チームのためにもステージ優勝を獲らなきゃという思いだった。ラスト250mのところで空いてるスペースを見つけて入り込んでスプリントをしたんだ。今朝の状態からまさか優勝できるとは信じられないね」
と笑顔を見せた。
同じチームで山岳賞を獲得したハッカーは、全体の感想として、
「全体的にツール・ド・とちぎはとても良いレースだと思ったよ。最初に高低差を見たときは、それほどではないと感じた。でも、考えていたよりもずっとハードなコースだった。とてもエキサイティングなレースができたんじゃないかな。チーム右京としては、最終的に山岳賞とスプリント賞の2枚のジャージと最終日にステージ優勝を上げることができたので、とても良い結果だったと思う」
と話した。
山岳賞獲得については、
「簡単に取れたわけではなかったね。ただ、一つ目の山岳ポイントを獲得していたことをわかっていた。どちらかというと、今日は山岳賞を狙うというよりもチーム総合優勝に貢献したいという思いで飛び出したんだ。結果的に山岳賞がついてきた形だね」
と、あくまで山岳賞を狙ったわけではないことを強調した。
今年、那須ブラーゼンからチーム右京に移籍し、これが日本での初戦となった吉岡は、
「チームとしては、最後にステージ優勝できましたし、チーム総合で優勝できたっていうのは僕の中で大きいですね。今までブラーゼンでも目指してはいましたけど、一回もそういうチーム表彰とかはなくて。個人的には初めてなので、正直うれしいのはうれしいですね。個人的な走りとしては、アシストとしてまだまだです。昨日のレースでも上りはついていけたんですけど、下ってからのアシストとかはまだ詰めが甘い部分があったので、今後、この1年しっかり吸収していってまた力つけていって、最後にはもっともっといい走りができるように頑張っていきたいです」
とチーム総合を獲得できた喜びと今後の課題について語った。
増田「また来年におあずけ」、ポッター「I will try」
「この3日間を通して、予想以上の出来栄えだったと思う。ステージ優勝というのも自分にとっては驚くべきできごとだった。ジャージをキープすることは非常にハードだった。特に今日はね。今日のステージは3日間の中でも非常にプレッシャーがかかるレースだったんだ。最初の上りの後、他のチームが僕たちチームの動きを見て攻撃を仕掛けたことで、チームメイトは後ろに下がってしまった。正直、今日のステージでリーダージャージを手放すことになるかもしれないとすら思った。でも、その後チームメイトたちが追いついてきてくれて、自分を守るための動きをしてくれたし、チーム全体で僕をサポートしてくれた。彼らなしには成し遂げられなかったと思うよ」
と落ち着いた表情で話した。
今年から変えたことについて聞くと、
「今年はオーストラリアとニュージーランドで2つのレースに出場した。昨年との違いというと、チームからの自分に対するサポートの仕方が大きく異なると思う。レースのときだけなく、バイクを降りた日常生活の面でも自分がやりやすいように、バイクに乗ることを集中させてくれる環境を作ってくれたことが結果につながっているのだと思うよ」
と答えた。
総合順位を一つ落として、3位に入った増田は、
「今日は総合成績も諦めないでチャレンジして、途中までは最高の展開でした。リーダーの彼は本当に強いので絶対にちぎれないだろうなとは思ったんですけど、リーダーともう一人の2枚にすることができて、そこからまわりの利害関係が一致する右京の選手とか、LXとかといい形で攻撃を仕掛けていきました。まだ残り70kmあったので、成功するか分からなかったですけど、リーダーも自ら引く場面もあって、これはもう本当にチャンスだなと思ったんですけど、愛三工業もゴールスプリントにしたいっていうのもありましたし、ちょっと最後は思うような展開にはなりませんでしたけど、僕たちは僕たちでやれることをチャレンジしました。岡選手も残り3kmで捕まってしまった。でも、そこからも諦めずにゴールスプリントも狙っていけたので。結果は最後ついてこなかったですけども悔いはないです。リーダージャージを守りきったマイケル・ポッター選手は本当に強かったっていうその一言に尽きます。」
日本チームは、宇都宮ブリッツェンを中心として、全体を通して最後まで諦めない攻めの姿勢を崩さず、昨年よりもよっぽど記憶に残る走りをしてくれた。勝負所では必ず仕掛ける場面が見られ、最後には心を震わせるような単独逃げも見られた。重要なところでパンクやコースアウトなど不運も続いたが、それも実力のうちの一つと言える。
昨年、総合3位で表彰台に乗った鈴木譲は、
「昨年は守って3位で、今回は攻めて3位だった。2位とか3位も価値はあるんですけど、地元レースの場合、やっぱり優勝しかないと思うんですよね。優勝を目標にって常々言い続けてるんですけど、やっぱり攻めないと分からないですから」
と話す。チーム全体で一番高い目標、総合優勝へ向けた意識が高まり、さらに、やりたいことが実行できるような実力が伴ってきた上でのレースだったのだろう。
今年の表彰式で増田は、「また来年におあずけ」と言った。この悔しさをバネにどう修正し、成長してくるだろうか。来年も楽しみだ。
また、今回のレースで圧倒的な強さを見せた初来日のポッターに、来年はワールドツアーで走るの?と聞いてみた。
「行きたいね。でもまだ足りない。それまでにはまだつみかさねないといけない。I will try.」
と笑顔を残した。日本で活躍した選手がさらに強くなって世界に羽ばたくことにも期待しよう。