トピックス

CYCLESPORTS.jpが選ぶ 2014年10大ニュース・サイクルロードレース編

2014年もさまざまなドラマがあったサイクルロードレース。この1年を10のトピックスで振り返る。
 
Photo: Graham Watson / LaPresse (RCS Sport) / Movistar Team / Yazuka Wada

News1:ツールでイタリアのニバリが初優勝

英国北部のヨークシャー地方で開幕した今年のツール・ド・フランス(UCIワールドツアー)は、ビンチェンツォ・ニバリ(アスタナ)が初優勝し、1998年のマルコ・パンターニ以来16年ぶりでイタリアにマイヨ・ジョーヌをもたらした。
 
開幕前の最有力優勝候補はディフェンディング・チャンピオンのクリストファー・フルーム(チームスカイ/英国)と、グランツール全制覇者のアルベルト・コンタドール(ティンコフ・サクソ/スペイン)だったが、2人とも落車のケガで前半にリタイアし、山岳ステージでニバリと激しいバトルを演じることはなかった。
 
強敵がいなくなったニバリは今年のツールで区間4勝を挙げ、パリに到着した時には総合2位のジャンクリストフ・ペロー(AG2R/フランス)に7分37秒もの大差を付けていた。これだけの大差はドーピングでツールを7年間支配した米国のランス・アームストロングですら付けたことがなかった。
 
ニバリは2010年にブエルタ・ア・エスパーニャ、2013年にジロ・デ・イタリアでも総合優勝していて、これでグランツール全制覇者の1人になった。現役選手でグランツールをすべて制しているのはコンタドールとニバリの2人だけだ。
 
●ツール・ド・フランス2014ハイライト→http://www.cyclesports.jp/articles/detail.php?id=555
 
●ツール・ド・フランス2015コース詳細→http://www.cyclesports.jp/articles/detail.php?id=602
 

News2:雪に見舞われたジロでキンタナが初優勝

英国の北アイルランドで開幕した今年のジロ・デ・イタリア(UCIワールドツアー)は、南米コロンビアのナイロ・キンタナ(モビスターチーム)が初出場で初優勝した。それはコロンビアにとって、ルイス・エレラが1987年にブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝し、初のグランツール勝者になって以来の快挙だった。
 
ディフェンディング・チャンピオンのビンチェンツォ・ニバリ(アスタナ)が欠場した今年のジロは、昨年のツールで総合2位になったキンタナが最有力優勝候補だった。
 
しかし、雨天に見舞われた序盤戦で落車に見舞われただけでなく、風邪も引いてしまったキンタナは、山岳ステージが続く最終週に突入したとき、マリア・ローザを着た同郷のリゴベルト・ウラン(オメガファルマ・クイックステップ)を2分40秒差で追いかける立場だった。
 
運命の1日となったのは、大雪になったガビア峠とステルビオ峠を越える第16ステージだった。主催者の情報の混乱から、ステルビオ峠の下りがニュートラル(競争しないで走ること)になったと判断したチームのなかに、ウランのオメガファルマ・クイックステップも入っていた。
 
ところが実際にはレースはニュートラルにはなっておらず、その間に先行したキンタナが4分以上の差を付けて区間優勝し、総合首位に立った。彼はそのまま最終日まで、マリア・ローザを手放すことはなかった。
 
●ジロ・デ・イタリア2014ハイライトhttp://www.cyclesports.jp/articles/detail.php?id=505
 
●ジロ・デ・イタリア2015コース詳細→http://www.cyclesports.jp/articles/detail.php?id=592
 

News3:コンタドールがブエルタで奇跡の復活優勝

今年最後のグランツールだったブエルタ・ア・エスパーニャは、ツールで右脛骨を骨折した地元スペインのアルベルト・コンタドール(ティンコフ・サクソ)が奇跡の復活総合優勝を演じ、世界中を熱狂させた。
 
開幕前の優勝候補は、ジロで6月に総合初優勝したコロンビアのナイロ・キンタナ(モビスターチーム)や、ツール連覇の夢を落車のケガで絶たれた英国のクリストファー・フルーム(チームスカイ)だった。
 
キンタナは第9ステージの頂上ゴールで総合首位に立ったのだが、翌日行なわれた個人タイムトライアルで転倒して遅れ、たった1日でマイヨ・ロホを失ってしまった。
 
それを引き継いだのが、個人タイムトライアルが始まる前、キンタナにたった3秒遅れにつけていたコンタドールだった。彼はこれまで競ったグランツールで、一度獲得したリーダージャージを他人に譲り渡したことはなかった。
 
コンタドールはケガの影響を一切見せることなく、後半戦の山岳ステージでフルームの猛攻撃を交わし、ブエルタで3度目の総合優勝を果たした。それは彼にとって、6回目のグランツール制覇だった。クレンブテロール事件で剥奪されてしまった2勝を入れれば8回目になる。
 
●ブエルタ・ア・エスパーニャ2014ハイライト→http://www.cyclesports.jp/articles/detail.php?id=580
 
※ブエルタ・ア・エスパーニャ2015のコース発表会は来年1月10日に行われる予定
 

2014シーズン グランツール優勝者

●ビンチェンツォ・ニバリ
国籍:イタリア
年齢:29歳
所属チーム:アスタナ(カザフスタン)
グランツール戦歴:
2010 ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝
2013 ジロ・デ・イタリア総合優勝
2014 ツール・ド・フランス総合優勝
 
●ナイロ・キンタナ
国籍:コロンビア
年齢:24歳
所属チーム:モビスターチーム(スペイン)
グランツール戦歴:
2014 ジロ・デ・イタリア総合優勝
 
●アルベルト・コンタドール
国籍:スペイン
年齢:31歳
所属チーム:ティンコフ・サクソ(ロシア)
2007 ツール・ド・フランス総合優勝
2008 ジロ・デ・イタリア総合優勝
2008 ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝
2009 ツール・ド・フランス総合優勝
2010 ツール・ド・フランス総合優勝 ※剥奪
2011 ジロ・デ・イタリア総合優勝 ※剥奪
2012 ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝
2014 ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝
(*年齢は優勝当時)

News4:世界選でポーランド初の世界チャンピオン誕生!

9月にスペイン北部のポンフェラダで開催されたロード世界選手権は、ポーランドのミハウ・クウィアトコウスキー(オメガファルマ・クイックステップ)が、残り7kmの下り坂でアタックする奇襲を成功させ、独走で初優勝した。
 
ポーランド人がアルカンシエルを獲得したのは、史上初の快挙だった。今年はツール・ド・フランスでもラファウ・マイカ(ティンコフ・サクソ)が1993年のゼノン・ヤスクラ以来の区間優勝を上げ、ポーランド人として初めて山岳賞を獲得。2014年はポーランド大躍進のシーズンだった。
 
●ポンフェラダ世界選ハイライト→http://www.cyclesports.jp/articles/detail.php?id=588
 
※2015年の世界選手権は米国のリッチモンドで開催される(http://richmond2015.com)
 

News5:ワールドツアーランキングはバルベルデが首位

全28戦で競われた2014年のUCIワールドツアーは、スペインのアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)が個人ランキングで686ポイントを獲得して1位を獲得した。
 
バルベルデはUCIワールドツアーランキングの前身であるUCIプロツアーランキングで2回首位を獲得したことはあったが、UCIワールドツアーランキングになってからは初めてだった。
 
彼は今年のUCIワールドツアーでは、ベルギーのフレッシュ・ワロンヌと地元スペインのクラシカ・サンセバスティアンの2つのワンデーレースでしか優勝していない。しかし、ツール・ド・フランスで総合4位、ブエルタ・ア・エスパーニャで総合3位になり、着実にポイントを稼いだ。
 
ブエルタ終了時点ではコンタドールが首位だったが、バルベルデはイル・ロンバルディアで2位になって首位の座を取り戻し、そのままシーズンを終えた。
 
チームランキングはバルベルデが所属するモビスターチーム、国別ランキングはスペインが首位になり、今年もスペイン勢の強さが際立った1年になった。
 
2015年のUCIワールドツアーは中国のツアー・オブ・北京がなくなり、全27戦で競われる。

●UCIワールドツアーランキング2014最終結果→http://www.cyclesports.jp/depot/detail.php?id=10375
 
●UCIワールドツアー2015全日程→http://www.cyclesports.jp/depot/detail.php?id=10193
 

News6:カンチェッラーラ来日!

今年はレースやイベントでビッグネームが大勢来日したが、何と言ってもスイスのファビアン・カンチェラーラ(トレック)が、直前に負傷したにもかかわらず、日本のファンに会いに来てくれたのがいちばんのニュースだった。
 
10月に開催されたジャパンカップに参加を予定していたカンチェッラーラは、出発直前に行ったトレーニングで木にぶつかって頭を打ち、欠場となってしまった。
 
しかし、日本へのフライトは可能という診断が医師から出たため、レース当日の朝に来日。翌日は都内で行われたトレックのパーティにも出席し、大勢のファンと交流した。
 
●トレックJCアフターパーティーレポート→http://www.cyclesports.jp/depot/detail.php?id=10417
 
●カンチェッラーラ来日インタビュー→http://www.cyclesports.jp/articles/detail.php?id=609
 

News7:アンディ・シュレクが29歳で引退

ルクセンブルクのアンディ・シュレク(トレック)が、10月に29歳の若さで現役引退を発表した。
 
今年のツール第3ステージで落車した際に負った右ヒザのケガが完治せず、プロ選手としての活動を続けることが困難になったためだった。
 
まだまだ現役を続けられる若い選手が、こういう形でレースを続けられなくなるのは非常に残念だ。今年はシクロクロス元世界チャンピオンのニールス・アルベルトも、定期健診で心臓に致命的な問題が見つかって競技を続けられなくなり、5月に28歳で引退を発表した。


News8:43歳のフォイクトがアワーレコードを更新
 
8月のUSAプロサイクリング・チャレンジ(アメリカツアー2.HC)で現役を引退した43歳のイェンス・フォイクト(ドイツ)が、9月18日にスイスのグレンヒェン・ベロドロームでアワーレコードに挑戦し、51.115kmを走破して世界記録を更新した。
 
フォイクトの記録は、10月30日に51.852kmを出したオーストリアTTチャンピオンのマティアス・ブランドレ(IAMサイクリング)によって書き換えられてしまったが、9年ぶりのアワーレコード挑戦と更新に世界中が熱狂した。
 
来年はすでに大勢の選手がアワーレコード挑戦を表明している。3選手のスケジュールがすでに発表されていて、1月31日にジャック・ボブリッジ、2月8日にローハン・デニス、2月27日にアレックス・ダウセットが挑戦する予定だ。
 
News9:アスタナがドーピング・スキャンダルでチーム存続の危機
 
カザフスタンのUCIプロチーム、アスタナプロチームは秋にイグリンスキー兄弟がそろってEPO陽性になった後、下部組織であるUCIコンチネンタルチームの選手が立て続けに3人、アナボリック・ステロイド剤で陽性になってしまった。
 
アスタナはこのUCIコンチネンタルチームの活動停止を決定したが、事態を重く見たUCIは、アスタナのワールドツアーライセンス再審査をライセンス委員会に要請した。
 
審査には時間がかかり、アスタナのライセンスは剥奪されるだろうという憶測が飛び交ったが、ライセンス委員会はチームがローザンヌ大学スポーツ科学研究所の監査を受け入れるなどの条件を付けてライセンスを認可した。
 
これにより、アスタナは2015年もUCIワールドチーム(旧称UCIプロチーム)への登録が認められた。しかし、来年2月上旬に発表される監査結果で問題が発覚した場合には、ライセンス撤回の可能性も残されている。アスタナはチーム存続の危機が完全に回避されたわけではない。
 
News10:なくなることのないドーピング違反
 
残念ながら今年も大勢の選手のドーピング違反が白日の下にさらされた。
 
1月には元世界チャンピオンのアレッサンドロ・バッランが、マントヴァ事件でドーピング違反が発覚し、2年間の資格停止処分を下された。処分終了は2016年1月16日。バッランは今シーズン、米国のBMCレーシングに所属していたが解雇されている。
 
2月にはドイツのパトリック・シンケビッツが、8年間の資格停止処分を下された。彼は2011年のドーピング検査で自転車選手として初めてヒト成長ホルモン(HGH)の陽性になったが、過去にEPOと血液ドーピングで1年間の処分を受けた経歴があったため、厳しい処分を下された。
 
4月には昨年のジャパンカップでクレンブテロール陽性になったオーストラリアのマイケル・ロジャース(ティンコフ・サクソ)が、中国で食べた肉のせいだという主張が認められて資格停止処分を免れたが、ジャパンカップでの優勝は剥奪されてしまった。
 
6月にはイタリアのディエゴ・ウリッシ(ランプレ・メリダ)が、ジロのドーピング検査でサルブタモール陽性になった。彼は気管支炎の治療でサルブタモールを使用したと主張している。判決は来年1月に下される予定だ。
 
チェコのロマン・クロイツィーゲル(ティンコフ・サクソ)は、バイオロジカル・パスポートで異常値が発覚し、ツールに参加することができなかった。彼はチェコ車連から無罪判決を下されたが、国際自転車競技連合(UCI)はスポーツ仲裁裁判所(CAS)に告訴している。
 
7月は昨年引退したロシアのデニス・メンショフが、バイオロジカル・パスポートでアンチ・ドーピング違反があったとして、2年間の資格停止処分を下された。彼は異常が明らかに認められた2009年、2010年、2012年のツールの成績も剥奪されてしまった。
 
英国のジョナサン・ティアナンロックもバイオロジカル・パスポートでアンチ・ドーピング違反が見つかり、2年間の資格停止処分を下された。処分は2015年12月31日まで。彼は2012年のツアー・オブ・ブリテン総合優勝と、リンブルフ世界選手権の成績を剥奪された。
 
9月にはカザフスタンのワレンティン・イグリンスキー(アスタナ)が、エネコ・ツアー(UCIワールドツアー)の検査でEPOの陽性になった。彼はドーピングの事実を認めて4年間の資格停止処分を受け、チームを解雇された。
 
イタリアのマッテーオ・ラボッティーニ(ネーリソットリ)は、8月に行われた競技外の検査でEPO陽性になったことが9月に発覚した。この一件で、チームはMPCC(信頼できる自転車競技のための活動団体)から1年間の会員資格停止処分を受けている。
 
10月にはカザフスタンのマクシム・イグリンスキー(アスタナ)が、8月行われた競技外のドーピング検査でEPO陽性になったことが発覚した。立て続けに2人の陽性者を出したアスタナはMPCCのルールにしたがって、ツアー・オブ・北京(UCIワールドツアー)の出場を辞退した。
 
12月にはイタリアのマウロ・サンタンブロージョが、10月に行われた競技外のドーピング検査でテストステロンの陽性になったことが発表された。彼は昨年ジロの検査でEPO陽性になって受けた資格停止処分が、11月2日に終了したばかりだった。